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 えっと、押すのは、リールの各列の下にあるこのボタンだよな。狙うのは、やっぱり、〈7〉か。でも〈7〉もなんか、二つあるな。赤いのと金色なの。金色の方がレアっぽい。じゃあ、そっちか。しかし、なんか、あれだなあ。一応、図柄の一つ一つは〈魔少年女〉のキャラとか、モチーフが使われているんだけど、結局、スロットのベタなガワみたいのがあって、そこに当てはめているって感じだな。スイカやサクランボなんて、〈魔少年女〉に出てこないもん。生の野菜や果物が貴重品と化した未来世界が舞台だからね。よし、やってみるか。左。止まった。〈7〉は、一応、あるな。スロットって真ん中横並びじゃなくって、上下横並びとか斜めでもいいはずだよな。ゲーム知識。次、中央。駄目だ。〈7〉ない。あー、適当でいいや。右。これで一ゲーム終わりか。ん。

「メダル、三枚、減るのか」

 ミニ・ディスプレイの表示が四三枚になっている。

「〈MAX BET〉だからね」

「マックスが三ってこと」

 押させる前に、それ先に言えよ。

「一枚、二枚とかちびちび賭けたら駄目なん」

「できるけど、当たってもリターンが少ない」

 それは、そうか。ギャンブルだもんな。

「理解した」

 レバーを引く。回れ、リール。

 始めることさえできれば、こっちのもんだ。どんなゲームでも、結局、そうだよな。スロットなら、RPGとか、パーティゲーとか、そういうやつのミニゲームで何度もやってるし。目押しはそれなりに得意なはずだ。あーっ、でも、駄目だ。揃わねえ。次。あ、なんか光って音が出たぞ。スイカが揃った。一列。きた、当たり。何枚もらえる。三枚。三枚かあ。やはり〈7〉じゃないと駄目なんかな。次。

 ガンガン回していくことに躊躇ためらいはあまりない。

 当たるはずだからだ。

 そもそもの話、天道がパチスロに誘ってきたのは今月の頭だった。大学の食堂で、〈決闘王〉をしようと待ち構えていた俺に絶対稼げるからパチスロをやろうと言ってきたわけだ。俺は当然、無視した。その時はまだ財布に金あったから。で、その後、数週間経って、また、同じように誘ってきた。つまり、天道は少なくともこの数週間、負けてはいなくて、ちゃんと稼げているのだ。

 こいつの人格については概ね信頼していないが、金についての話だけは、結構、信じている。なにしろ、大金持ちになりたいから経済学部に入ったとかほざく奴だから。

 故に、天道が選んだこの台は、当たる。

 当たる。

 はず。

 いや、全然ダメだな。

 スイカとかサクランボはそれぞれ二、三回、出てきた。あと、なんか青いホウキマーク揃うとタダでもう一回できるっぽい。でも、メダルは増えない。ってか、やっぱこれ、楽しくなさすぎでは。ディスプレイに表示されているアニメも、全然ストーリー先に進まないし。アキトくん、君はそのコーヒー・フレーバー・ウォーターを、この十分くらいで何杯飲んでいるんだね。えっと、次がラストか。回す。止める。

「ん、ワンkケー終わったか」

 天道が手を止めた。見る限り、あっちも当たった様子がないのにはホッとした。

「終わった」

 あー、畜生。やっぱり、パチンコとかパチスロとか、馬鹿のやることだわ。無駄にした。十分で一〇〇〇円かあ。サブスク一か月分の金って考えると、圧縮された無駄遣いすぎる。

「でも調子良いな」

「どこがだ」

「小役が当たりまくってたじゃん」

 スイカやサクランボのことらしい。

「とりあえず、次、入れなよ」

「もうねえよ」

 天道の目が見開かれた。腹立つな。

「今日、打つって分かってたろ」「なけなしの金なんだよ、この一〇〇〇円が」

「大事な金を使うなよ」「お前が確実に稼げるって言ったんだろ」

 天道が「あのな」とため息を吐く。首を小さく横に振って、奴の前髪がちょい揺れる。

「一〇〇〇円の投資で、当たりを引けるわけないだろ」

 なんだこいつ。

 

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 結局、天道から金を借りることになってしまった。最悪。人生の汚点だろ。

「五〇〇〇円あれば、いけるのか」

 俺は津田梅子の肖像画を睨みつける。

「いけない時もある」

「ふざけんな」

 ってか、パチ屋くる連中って、六〇〇〇円はまず、用意してから、やってきているってことなのか。マジで。こいつら、そうなのか。パチ屋なんかに来てるくせに。馬鹿じゃねえの。勿論、それを言ったら、一番の馬鹿は俺なのだが。嫌になるなあ。サンドへ五〇〇〇円札を挿し込む。父さん母さん、俺は今から、他人の金でパチスロ打ちます。あー、五〇〇〇円とか入れても、貸出は一〇〇〇円ずつなのね。良心的だな。でも、お釣りはどうやって受け取るんだ。

 レバー叩く。

「ああ、そうそう」

 リール止める前に天道から声がかかった。

「もしかしてだけどソータ、〈7〉狙ってない」

「狙ってるが」

「平常時には当たらないよ」

 はあ、と大声を出しながら一列、止めてしまった。〈7〉は入っていない。

「どういうことだよ」

「言葉のまま。基本的にパチスロって、ボーナスのモードじゃないと〈7〉揃わないよ」

 天道は前を向いたまま言った。確かに、今、天道が止めたリールにも〈7〉はない。

「それって、結構、秘密にするべきことじゃねえの」

 法律か何かに違反してないか、というか。天道は「みんな知ってるよ」と平然と返してくる。みんな知ってちゃダメだろ。どういう遊技なんだよ。

「とりあえず、スイカやサクランボを狙いな。〈7〉が当たるモードになったら教えてやるから」

 言う通りにしてやった。

 それが来たのは、更にもう一〇〇〇円入れて、なんか、大分どうでもいい気分になっていたタイミングだった。メインのディスプレイに急に雷が走った。大きな音が出てくるのと同時に字幕で〈ヨル・チャンス〉。うおっ、ヨルさん出てきた。ホウキにまたがって、画面に参上。トールくんもヨルさんの魔女帽の上にいる。ヨルさんの使い魔だからね。

 俺は天道の肩を叩いた。天道も「おっ、チャンスじゃん」と言う。チャンスらしい。

「〈7〉当たるってことか」

「いや、まだ、それじゃない」

 なんだよ。

「ただ、チャレンジを成功させれば、そのモードに入る」

 やってやろうじゃん。俺は椅子に座る腰を浅くした。集中しろ。画面に大きく〈狙え〉という文字で、〈魔少年女〉のロゴマークが出てきた。「これ、スロットでロゴマーク揃えるのを狙えばいいのか」「見て分からないか」分かるけど、念のためだよ。

 左列。一番上にロゴマーク、入った。中央列。あ、ミスった。一番下だ。右列、適当に終わらせる。終わりかあ。『もう一回、できるでしょ』あ、ヨルさん声かけてくれた。まだ、やれるのか。優しい。もう一度、集中して、ぱし、ぱし、ぱしとボタンを触っていく。やった。ど真ん中に一列、揃った。

「ソータすげえ、上手いじゃん」

「だろ」

 何が「だろ」なんだ、と自分でツッコんでるうちに画面が変わる。金色の〈ボーナス〉の文字の横に、アキトの顔がカットイン。

「〈7〉、狙っていいよ」

 天道の言葉に頷いた。

 画面ではアキトがビルの屋上にいる。決意に満ちた表情で、メトロポリス・ギガ・トーキョーの景色を見て、いざ、飛び降りる。アキトがついに力を手にし魔少年へ変身する名シーン。俺は左列のボタンを押した。うおっ、凄いぞ。なんか画面に電光が走った。〈7〉きた。中央列、いくぞ。〈7〉。画面内でアキトが叫んでいる。それに身を任せるように俺も最後。あ、やべ。最後、ロゴマークじゃん。

 ミスった、と思ったが、なんか台からは景気の良い音が出た。

「上手いな。揃ったじゃん」

 天道の方を向く。

「えっ、一番右、ロゴじゃん」

「それもボーナス柄なんだよ。BARって言うんだけど」

 そうなのか、と見直す。画面内でアキトの変身が始まっていた。着ていた学ランの生地が溶けていき、紫色のピッチリとしたコスチュームへ変わっていく。「でもエピソード・ボーナスだけどね」天道が何やら口を挟んできたが、気にならなかった。達成感。メダルの数が増えている。六〇枚。えっと、一五〇〇円いかないくらいか。でも、増えたぞ。

 横で天道が「よしっAT入るぞ」と言った。

 またディスプレイの表示内容が変わっている。〈天徒襲来〉の文字。おお、来るのか。最初の敵、ソード・エンジェルだっ。

「押し順ナビに従って、止めていきな」

 ナビ、とリールの方を見ると、確かに、左列のところが、押せというように光っている。押した。アキトがソード・エンジェルに一撃を決めた。次に中央部が光る。押す。最後に右。ソード・エンジェルがぶっ倒れて〈5Gゲット〉の文字。画面には再度、〈天徒襲来〉と出てくる。

「おしおし、何ゲーム追加できるかな」

 天道は最早、自分の台を見るのをやめていた。「へへっ」と俺の口から出てきた声は正直、無意識で。耳にして、自分でビックリしていた。

 

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 最終的にメダルは二〇〇〇枚くらい、出た。

 誰もがご存じの諸事情により、そのメダルをどうしたのかについては具体的なことは話せないが、しかし実際にそれを体験できてちょっとワクワクしたが、四万四〇〇〇円くらいもらえた。投資は三〇〇〇円。自腹は一〇〇〇円。

「等価交換だったろ」

 車まで戻る途中に天道が言った。

「なんか来る時に言ってたな。どういう意味で言ってんの」

「メダルを貸し出してもらった時のレートと、同じ額で交換できたっしょ」

 頭の中で計算する。

「そうかもしれない」

「東京だと、条例で、それができないんだよ。四六枚メダルを持っていっても、一〇〇〇円にならない」

 だから、わざわざ八王子を出て橋本まで来た、と。

「確かに、稼げた、な」

 俺は助手席のドアハンドルを掴みながら呟く。なんだか、ふわふわしていた。まだ目が痛い気がする。まだまだ日が照っている時間帯だが、空気が暑いんじゃなくってあったかい。

 本当に、という感じがある。本当に、四万四〇〇〇円稼げちゃったわけか。うわー。

「使ったってことだよな。パチスロで確実に稼げる方法」

 しかし、エンジンをかけた天道の返事は予想外のものだった。

「いや、そういうわけではない」

 じゃあ、この金はなんなんだよ。

 

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 必勝法の件はこのあとすぐ説明すると天道は車を発進させ、八王子方面へ少し戻ったところの〈バーミヤン〉で停めた。夕食前だし、まだ混んではなさそうかな、と思いながら天道についていって、店内に入る。天道は受付もせず、フロアへ進んだ。その瞬間に、なんとなく察したね。案内された先に、やはりあの女性がいた。〈魔少年女〉の台を俺に譲った、ショートカット。先攻もらおう。

「どうも」

 頭を下げてやる。

「あれ、知り合いだっけ」

 天道が尋ねると、その子は首を振った。

「話したこともないよ。でも、同じ大学っしょ」

 天道と食堂で飯を食っていたところを見かけたことがあった。それこそ先月、天道と〈決闘王〉のガチデュエルをやった直前、和風ハンバーグ定食を一緒に食ってた子が、この子じゃなかったか。

「だから、さっき、妙だとは思ったんだよ。出先で知り合いに会ったってだけなら、天道の方が先に気づいているはずなのに、何もリアクションとらないから」

 天道が口笛を鳴らした。行儀悪いぞ。

「なら、話が早い。こっちがソータ」慌てて「横田蒼太です。天道と同じゼミ」と口を挟む。こういう時はフルネームと所属を紹介しろ。「で、こっちがアリカ」だから、フルネームと所属を紹介しろ。アリカは「よろしくお願いしまーす」だけで済ませた。

「まあ、とりあえず座りな」

 そう天道は席をすすめてくる。あまり気が進まないなと思いながら、椅子を引いた。初対面の人の真正面に座りたくないんだよなあ。オタクだから、俺。席を俺に譲ってから、ここでずっと待ってくれていたのだろう。テーブルの上には皿やカップ、ティーバッグが散らばっている。顔を上げると、アリカは照れたようにそれらを自分の側へ寄せた。天道よりも常識人っぽい。着ているのは、ちゃんと私服だし。いや、天道のスーツも私服ではあるか。

「何か仕掛けたってことだよな」

 タッチパネルで注文を済ませ、ドリンクバーから飲み物を運んでくると、俺はすぐに天道を睨んだ。

「俺が当たるように」

 ただ、その仕掛けは、例の確実に稼げる方法とやらではない、とのことだが。

「そうだね」

「何をしたんだ」

「わたしに高設定の台を探させたんだよ、天道くん」

 俺は「高設定」と言いながら、アリカの顔を見る。アリカは天道の方を見て「結局、結果、どうだったん」と言った。天道が答えると、「えー、もうちょい出せたんじゃない。もっと見せてよビギナーズラック。万枚いこう万枚」と勝手に盛り上がる。やめて。

「えーっと、どういうこと」

「パチスロって、当たりやすい台、当たりにくい台を店が設定することができるんだよ」

「ちょっと待て。許されてるのか、そんなこと」

 というか、例の、そういうモードにならないと〈7〉には止まらないっていうのと同じで、何故、客がそれを知っている。承知で打つ。

「そういうもんだから」

 アリカはさらりと流した。

「それでいいんですか」

「むしろ醍醐味だね」

「〈決闘王〉でも、えげつない封入率とか分かって買うじゃん。あれと同じよ」

 天道がフォローしてくるが、明らかにそっちは醍醐味ではない。

「今日、ソータが打ったのは〈設定6〉。一番良い設定」

「正確には〈設定6〉濃厚ね。小役の出方が良かったしボーナス後に夕焼け演出きた」

 えーっと。

「こっちからは実際には、設定が良いか悪いかは分からないけど、それを推測はできるって話で認識あってるか」

「あってるあってる。台の上のデータカウンターとか見てね」

 確かに、なんかついていた。ゲーム数とボーナスとATの回数が表示されているっぽいやつ。そうそう、あのどこを押せばいいのか案内してくれて、やたらメダルを細かく加算してくれるモードのことをアシスト・タイムと呼ぶらしい。その略でAT。どこで知るんだみんなそんなの。

「アリカにお願いして、見繕ってもらってたわけ」

「大変だったよ。自分が勝てるわけじゃない台のため、抽選並んでさ。最低でも〈設定4〉は見つけないとって」

 奢れよ、と凄んだ先が天道だったので安心する。

「なんで、俺に良い設定に座ってほしかったわけ」

「友情のため」

「真面目に答えろ」

 天道は「ははっ」と言いながら、ふわりと手を浮かせた。それから首をわずかに傾けて。

「ソータに味わってほしかったんだよね。パチスロは、高設定を見つけられるかのゲームだってことを」

 俺は、コーラを一口飲んだ。

「やっと本題か。確実に稼げる方法の」

 天道はますます笑った。

 

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「さて、どうやったら高設定を確実に掴むことができるだろうか」

 言われて、俺は少し考えてから「いや、そんな手段ないだろ」と応じる。

「その、アリカ、さんが今日、俺のために〈設定6〉を見つけられたのも正直、偶々じゃないか。たくさんの台のデータを見て、たくさんの台を打って、それでようやくそれっぽいのが見つかるっていう話だろ。しかも、あくまでそれっぽいどまり」

「正しいよっ、ソータくん」

 アリカが指を鳴らした。照れるぜ。

「そう、ソータの言っていることは正しい。究極、確実とは言えないのが高設定探しだ。だが、高設定を掴み、打って、勝って終われる可能性を上げることはできる」

「どのように」

「試行回数を増やせばいい」

 また、俺は少し考えた。

「当たり前では」

 たくさんの台を見て、たくさんの台を打って、という話の繰り返しではないか。それでも限界があるって話をしていたんじゃなかったか。

「見極められるまでえーっと、三〇分かかると仮定して」

「どうしようもない低設定かどうかは、もうちょい早く見切る」

 アリカが言ってきたのに「そうですか」と頷く。

「二〇分かかると仮定して、さっき見た感じだと一つの列に二〇台はあるよな。全部、打ったら四〇〇分でしょ。で、その中に当たりがなかったらまた次の列。きつくね」

「一人なら、な」

 天道が一本、指を立てて言った。そして、その手を広げる。アリカが「五人」と言った。「もっと多くてもいい」と天道は椅子の背もたれに体重をかけ、前脚を浮かせる。

「複数人で高設定を探しながら打てば、効率はぐんと上がる。一人が負けても、一人が勝てば結果は均せる」

「なる、ほど」

 道理だ。アリカが「軍団打ち」とストローを咥えながら補足してくれる。そう呼ぶのだろう。チームを組んで打つので軍団打ち。分かりやすい。パチスロ業界用語、全部、こんくらいのレベルにしてくんないかな。

「それをやりたいってことね」

「ちょっと違う」

 違うのか。

「軍団でも、確実ではないだろ。結局、勝てるか負けるかが問題なんだから。そりゃ、勝つ時はどかんと勝つけどさ」

「まあ、そうだな」

 俺はコーラを飲んだ。天道の発言としては、ちょっと引っかかるが。どかんが好きだろ、お前。

「話を続けよう。世の中には、無関係の人間を集めて、そいつらに金を渡して打たせるという形で軍団打ちをするやり方をしている人間がいる。金を渡して打たせるそいつを親、金をもらって打つ奴を打ち子と呼ぶ」

 他人に金を渡して打たせる。ってことは、

「その打ち子が勝ったら、その勝ち分は」

「親がもらう」

「どかん、だな」

 俺の納得の一言を天道は何故か「まあね」と流し、説明をそのまま続けた。打ち子は一日中打つための資金の他、日給をもらう。また、大勝ちをした時には、追加で更にもらえるという。つまりは、いっこうに子たちが勝てなかった場合、親はガンガン金をなくす。

「ハイリスクハイリターンだな」

「まさに。確実に稼げるという意味では、子の方がずっといい。一日中ハマっていても、日給はもらえる」

 俺は思わず「ちょっと待て」とツッコんだ。

「えっ、お前の言う、パチスロで確実に稼げる方法って打ち子をやろうぜってことなの」

 それなら真面目にバイトをしていた方がマシだろ。

「違うよ」

 即答されて、安心した。のも束の間。

「俺は、このシステムの中に、もう一個、新たな仕組みを追加しようと思っている。打ち子仲介業者、信頼と安心の〈ヘブンロード機構〉を」

 だっせえ名前っ。

 

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「打ち子に打たせようと思っている親が一番、苦労することってなんだと思う」

「知らんが」

「打ち子集めだよ」

 天道はそのまま言葉を継ぐ。さっきから飲み物なんも飲んでないけど大丈夫か。

「正確には、まともな打ち子集めらしい。当たり前だよな。自分の金を預けるわけだから。ちゃんと言うこと聞いてくれる、飛んだり持ち逃げすることのない打ち子が理想なわけだけど、そうそう見つかるもんじゃない」

 パチスロの話で、何がまとも、という感じはしなくもないがまあ、頷ける。。Xとかで打ち子やろうぜって募集したとき、即時に反応してくれる奴には特にヤバい奴が交ざっていそうだ。

「でも、子になろうって方からしても、怖いよね」

 アリカが「闇バイトに繋がっているみたいな話も聞くしさ」と続ける。言い方的に、打ち子になろうとちょっと調べたことがありそうだ。その発想でる時点で少し怖いな。

「そうなんだよ。今、親のところにホイホイやってくる打ち子は、そういう発想すらない奴ばっかって話でもある。悪循環だ。分かったろ。そこで〈ヘブンロード機構〉なんだ」

「何するんだ」

 そのダサい名前の機構は。

「俺が親の代わりに打ち子を集め、管理をする」

 ああ、と唸った。見えてきた。

「集める対象は、うちの大学の奴らだ。大学生なら頭が回るし、身元もはっきりしているから安心しかないよな」

「確かに」

 打ち子の親が欲しい子の属性を全部持っている気がする。もう夏休み入っているから、かなり暇だし。

「逆に、子目線」

 天道がアリカを指さした。面と向かって人を指さすな。

「打ち子は、親と直接会うことは一切ない。全て、俺が間に立つ。だから、ヤクザみたいな奴と出会うことはない。安心して金をもらって打つことができる」

 天道が安心できる奴かどうかは微妙な気はするが。

 天道は大きく腕を広げた。

「親は信頼できる質の良い子を使うことができる。子は身の危険を感じることなく打つことができる。その間に立って俺は」

 息を吸い込んでから。

「マージンをもらうことができる。子が勝とうと、負けようと」

 つまり、パチスロで確実に稼ぎを得られる。

 

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 俺はコーラを飲み干した。氷がいつの間にか溶けていて、最後の方は薄かった。一度、息を吐きだして「それで」と天道へ向き直る。

「〈ヘブンロード機構〉計画は分かったんだが、俺らに何をしてほしいわけ」

「打ち子として参加してほしい」

 そういう話になるだろうな。

「もう既に親とは繋がっていて、俺もパチスロの基礎知識は大体把握した。後は実際に動くだけの状態。そのための人員確保をしていきたい。勿論、普通の打ち子よりも日給はかなり良い。安心と信頼にはそれだけの価値がある」

 どこかで聞いたようなことを言うなあ、こいつは。

「ちなみにアリカはもう、了承してくれている」

 ってことは、さっきまでの話でアリカが良い感じに相槌打ってたの仕込みだったってことじゃねえのか。そう思いながら見やると、アリカが俺へ向けて手を振っていやがる。怖いなあ。

「どうだ、ソータ」

 唸った。なんというか、確かに、となった。確かに、凄いことを考えるなあ。いけるかも、という説得力がある。こういうところは天道、本当にビジネスの才能あるよな。

 でもさ。

「一つ、聞いていいか」

「なんだ」

「これ、法律とかマナー的に、大丈夫か」

 天道は答えずに、アリカの方へ顔を向けた。アリカは首を傾げた。

「マナーで言ったら軍団や打ち子ってだけでバッドマナーだよ。見つかったら出禁になるし」

 だろうな、と思う。

「だが、犯罪ではない」

 天道が言葉を重ねた。まあ、こいつはそう言うだろう。俺は目の辺りを揉んだ。まだ、さっきの光り輝いていたトールくんやアキト、ヨルの姿が網膜に残っている気がする。耳もなんとなく遠いんだよな。

 財布を取り出した。さっき財布に放り込んだ四万四〇〇〇円を引き抜く。

「悪い、俺は乗れないわ。これも返す。借りた二〇〇〇円も別に都合つける」

 天道の額に皺が寄るのが見えた。なんだ、泣くのか。

「ソータ」

「なんだよ。多分、俺は説得されないぞ」

「それはいいんだけどさ」

 言いながら、どうも妙だと気づく。天道の視線を追ってみる。俺の財布の中へ注がれていた。今、取り出した他にお札はない。マジでなんもない。カドショのスタンプカードくらいしかない。

「流石に金なさすぎじゃね。ドリンクバー代だせるか。そんくらい奢るけどさ」

 払えないかもしれない。

 

(つづく)