六十歳以上の女性のみを対象とした女性用風俗店『銀楼館』。そこに所属する美しい男娼である櫻は、様々な老女に求められる日々を送る中、やがて彼女たちの人生にも触れることになる。
「小説推理」2026年6月号に掲載された書評家・瀧井朝世さんのレビューで『枯れ枝に桜』の読みどころをご紹介します。


■『枯れ枝に桜』君嶋彼方 /瀧井朝世 [評]
高齢女性向けサービスの利用客とキャストの青年の関わりが描き出す、多彩な人生模様
正直、タイトルを見た時は興味ゼロどころかマイナスに感じた。数ページ読み進めてみた段階でも、ネガティブな気持ちしか湧かなかった。
60歳以上の女性を対象にした性風俗だと? サービスを提供するのがピンクの髪をした、瞠目するほど美しい青年だと? 彼の名前が「櫻」ってことは、60歳以上の女性は「枯れ枝」ってことか? 設定上性欲があったり恋愛したがりだったりの高齢女性が出てくるのは理解できるけれど、世の中そういう女性ばかりだと思うなよ? 「女はいつまでも女でいたいものだ」とか「女にだって性欲はある」とか「孤独な高齢女性が美青年との交流で人生の彩りを取り戻す」なんて陳腐な物語だったらがっかりだからな? デビュー作『君の顔では泣けない』からずっと、君嶋彼方はいいぞとあちこちで吹聴してきたのに、がっかりさせんなよ? などと思った(私って何様)。
気づけば、そんな先走った不満や危惧や憤怒はすっかり消え去って、一気に読み終えていた。いやあ面白かった! 猛スピードの手のひら返しである。
第一章「恋の如く」は、一人暮らしの河津洋子が自宅に櫻を迎えいれる場面から始まる。櫻は「よろしくお願いしまーす!」とはきはき挨拶するような軽いノリの青年だ。そして二人の会話から少しずつ洋子の事情が明かされて……という、しごくオーソドックスな形。が、第二章以降は私の浅はかな先入観を気持ちよく裏切っていった。登場するのは、恋やセックスがしたい老女ばかりではなかった。仕事に誇りを持つ俳優が登場する話は映画「喝采」(2024年版)を彷彿させたし、高齢者用施設から依頼がくる話はホワイダニット的謎解きの趣があるし、奇妙な母娘の話はホラーみがあり、女性同士の友情が浮かび上がる話は胸熱。櫻もミステリアスな美青年ではなく、ちゃんと感情のある人間として描かれる。そんな彼が老境を迎えた女性たちのドラマを見守っていく連作であった。私のようにタイトルやあらすじからネガティブに感じた人も、君嶋彼方を信じて、安心してご覧あれ。