芳根京子さん、髙橋海人さんら豪華キャストで映画化もされた話題作『君の顔では泣けない』で鮮烈なデビューを果たした君嶋彼方さん。これまで男女の繊細な感情を様々な角度から切り取ってきた著者が、新たに挑戦したテーマはなんと「老境の性」。老女専門の美しい男娼の目を通じて、描きたかったこととは何なのか。最新作『枯れ枝に桜』に込めた思いを聞きました。
取材・文=編集部
老いや死への恐怖、承認欲求など人間の根本的な悩みは年齢と関係ないと分かった
──最新作『枯れ枝に桜』は、老女専門の男娼を通じて老境の性を描く連作短編です。これまでの著作とかなり毛色の異なる作品かと思いますが、「老齢女性の性」というテーマにチャレンジしようと思ったきっかけはなんだったのでしょうか?
君嶋彼方(以下=君嶋):きっかけはたまたま見つけたSNSの動画でした。介護ホームか何かの施設で、女性の入居者がスタッフの若い男性に対し、腕を組んだり手を握ったりしている動画です。それに対して、「かわいいおばあちゃん」「お気に入りなんだね」という好意的なコメントが寄せられていました。
実際の彼女の真意はもちろん分かりませんが、これが男女逆だったらどうだっただろうかと考えてみたんです。きっとそれほど好意的なコメントはないでしょう。「セクハラだ」「若い女の子に鼻の下を伸ばしている」と否定的だったと思います。
そう考えたとき、女性、かつ老人には、性欲というものが存在していないことになっているのだろうな、と感じました。でもきっと、ないわけじゃない。だったら「あるんだよ」ということを、書いてみたいなと思ったのがきっかけでした。
──登場人物のほとんどは60歳以上の女性たちになりますが、ご自身と性別も年齢も全く異なる彼女たちを描くうえで苦労した、あるいは興味深かった部分はどこでしょうか?
君嶋:苦労したのはやはり身体的描写です。自分は男なので女性の体の構造はやはり分からないですし、それが老人ともなるとそもそも裸すら見る機会がなく、けれどテーマ的には描写しないわけにはいかず、頭を悩ませた部分ではありました。映画などを観て勉強し、どうにか書いていましたね。
興味深かったのは、書きながらやはり人間の根本的な悩みは年齢と関係ないのだと分かったことです。老いや死への恐怖や他者に認められたい欲求など、老女たちの中で生まれたものとして書きましたが、それらは僕自身にもありますし、読者の方々も持っているものだと思います。
──本作は各章の女性たちだけでなく、彼女たちと接する美しい男娼・櫻も非常にミステリアスで印象的なキャラクターです。彼を描くにあたって気にしていた部分などはありますか?
君嶋:当初はどの章も性格や服装などが統一したキャラクターのつもりでしたが、担当編集氏と話し合った結果、それぞれの章で全く違うキャラクターになるような設定にしました。客である女性の性格や、物語のテイストと合うような書き分け方をしており、そこが一番気にかけていた部分です。
──収録されている6編は、それぞれに読み味の異なる短編です。これらの書き分けの際に意識されていたことは何でしょうか? また、特に気に入っている短編などはありますか?
君嶋:いずれもきちんと「老女が主人公である意味」を意識して書いたつもりでした。ひとくちに老女といっても抱える悩みや置かれた状況は当然さまざまであり、そこは気を付けていたので、読み味が異なるように感じていただけたのなら嬉しいです。
それと、各タイトルにはちょっとした共通点がありまして、よかったら探してみてください。
どの短編もそれぞれ思い入れはあるのですが、女優という世界が書けた「不要な人」、敢えてがらっと世界観を変えてみた「最奥に棲む」はその中でもお気に入りの作品です。
──最後に、本作を手に取ってくれる読者に向けて、メッセージをお願いします。
君嶋:少々とっつきづらい設定かもしれませんが、この作品の根底にあるのは性別年齢関係なく抱く感情だと思っております。本作を読んで、それを少しでも感じ取っていただけたら嬉しいです。
君嶋彼方(きみじま・かなた)
1989年生まれ。東京都出身。2021年「水平線は回転する」で第十二回小説野性時代新人賞を受賞し、同作を改題した『君の顔では泣けない』でデビュー。他の著書に『夜がうたた寝してる間に』『一番の恋人』『春のほとりで』『だから夜は明るい』がある。