青春小説やお仕事小説でヒットを連発する額賀澪さんの最新作のテーマは「ブタ鼻×アンガーマネ―ジメント」。少女漫画編集者の香子はどんな理不尽にも笑顔で対応する「怒らない人」だが、実は「怒ると鼻がブタになる」という秘密を抱えていた。

 締め切りを守らないマンガ家、SNS炎上、パワハラ上司など、彼女のまわりは地雷だらけ。そんななか、香子の危険すぎる恋が始まる。はたして、香子はブタ鼻を隠し通せるのか?

 

「小説推理」2026年4月号に掲載された書評家・あわいゆきさんのレビューで『恋するブタハナ』の読みどころをご紹介します。

 

 

恋するブタハナ

 

恋するブタハナ

 

 

■『恋するブタハナ』額賀澪 /あわいゆき [評]

 

刷り込まれた「呪い」を払拭して、湧き上がってくる「怒り」と同居できるか

 

 数多いる動物のなかでも、豚はどこか軽んじられていないだろうか? 豚に真珠、豚もおだてりゃ木に登る……改めてことわざや慣用句を並べると、そのどれもが豚をネガティブに扱うことで成立している。しかし、無自覚に何かを蔑ろにする雰囲気は「これは見下してもいいものだ」という刷り込みにつながり、呪いとして機能するときがある。

 

 塩見香子も、呪いをかけられている人間だ。玉雪出版が発行する少女漫画雑誌「月刊ペルル」の編集部に属する彼女は〈何があっても怒らない仏の塩見さん〉として働いている。高校時代に仲のよかった宮原大聖と同窓会で再会し、隣人の菊田春木がアルバイトとして編集部に勤務するようになるなど、立て続けに少女漫画的なイベントに遭遇する彼女だったが──呪いが順風満帆なロマンスを阻む。香子は怒ると「ブタ鼻」になってしまう呪いをかけられていたのだった。

 

 香子にかけられた呪いの根幹には2つの刷り込みがある。ブタ鼻を醜く思う感情、そして怒りを醜く思う感情だ。他者とのかかわりで価値観に違いがある以上、怒りたいときはどうしてもある。だが、喜怒哀楽のなかでも怒りは醜いものとされがちだ。怒らないのではなく、怒れなくなった香子が苦しんでいる呪いは、私たちにとっても決して他人事ではない。

 

 では、怒りを醜く思う呪いを解く方法はあるのか? 実のところ、ある。登山をする春木が自身の暮らす世界を〈下界〉と捉えているように、他者との干渉を天上人のごとく極力避けて生きれば、そもそも怒りはうまれない。しかしそれは、喜怒哀楽を「怒」だけでなく、丸ごと蔑ろにするのと同義だ。蔑ろにする範囲を広げただけでは、根本的な解決にはならない。

 

 香子は二人の男性と接する過程で、かけられた呪いと向き合うようになる。ブタ鼻も怒りもなくせないならば、いかにして同居していくか。それは呪いの根源にあるネガティブな刷り込みを、少しでもポジティブに引き受けなおす営みでもある。読み終えたときには、かかっていた呪いが解かれているはずだ。