スマホを置いて、本を持とう。

 

 年末の風物詩であり、今や日本を代表する一大コンテンツとなったM-1グランプリ2025は、大盛況の末たくろうの優勝で幕を閉じた。総じて大絶賛となった大会のなか、本原稿の筆者である編集者の心に特に強い印象を残したコンビがいた。惜しくも準優勝に終わってしまったドンデコルテである。

 

「現実を見ずにスマホの中の世界で生きていたい」という誇れることではないはずの主張を堂々と、あたかも信じるべきことのように語るネタは尻上がりに面白くなり、ただただTVの前でハイボール片手に爆笑していたのだが、ネタが終わってすぐにSNSでの感想も見てみようとスマホを手に取った瞬間、ふと背筋が寒くなる感じがあった。

 

 奇しくも筆者も30代半ばにして独身。日頃全く意識せずにSNSに依存していることに気づかされたのである。その後、放送終了までは、なぜかスマホを手に取るのすら躊躇われた。

 

 情報化社会である現代で、スマホなしで生きていくことは不可能である。一方で、人ひとりが受け取るには過分な情報の波に疲弊してしまう日々のなかで、時にスマホを置いてデジタルデトックスをすることは、心の安寧を保つのにもはや必須なのかもしれない。

 

 そこで、1月に双葉社から刊行する『#ハッシュタグストーリー』は、まさにうってつけの1冊である。

 

 今をときめく人気作家である4名が「SNSにもあるいい話」をテーマに綴った物語は、いずれも気づかぬうちに疲れてしまった心に染みるような傑作揃い。

 

 麻布競馬場「#ネットミームと私」は、ネット上でミーム化した1枚の写真を巡る、とある少女と1匹の犬の物語に自然と元気づけられ、柿原朋哉「#いにしえーしょんず」はヲタ活に励む独身女性の成長が、時に失敗しても人とのコミュニケーションを取ることの尊さを再認識させてくれる。

 

 カツセマサヒコ「#ウルトラサッドアンドグレイトデストロイクラブ」では理不尽に立ち向かう2人の姿に、辛い日々を乗り越えるための勇気をもらい、木爾チレン「#ファインダー越しの私の世界」はかつてサブカル趣味に染まっていた女性の物語に触れ、自らが歩んできた足取りを振り返ることも時には悪くないのだと思わせてくれる。

 

 詩人・寺山修司の名言「書を捨てよ、町へ出よう」に倣うのならば、「スマホを置いて、本を持とう」というところで、自分の心を休めてあげたいときにはぜひスマホの画面を閉じてからこの本を手に取って、ひととき温かな物語たちに浸ってみてもらいたい。

 

 読み終えた後に「誰かに伝えたい」「誰かと話したい」と思えたなら、きっとそれはあなたの心が潤った証で、それが日々を頑張ろうと思える原動力を与えてくれるはず。