アジアを中心とした旅に関する紀行ノンフィクションを数多く発表してきた、旅行作家の下川裕治氏の最新刊『バンコク旅の魅力再発見! アジアの優しさに出合う街歩き』が発売された。“元祖バックパッカー”の下川氏に、タイのバンコクについて、街歩きの魅力や最新の個人旅行術を聞いた。
取材・文=編集部
写真=中田浩資、下川裕治
バンコクの路地裏に佇む「家庭食堂」のおすすめ料理
──バンコク滞在中によく食事をしているというアハーン・タムサンについて、もう少しお聞かせください。ソイと呼ばれる路地によくある注文スタイルの庶民派食堂の総称で、下川さんは本書で「家庭食堂」と命名されています。このスタイルの食堂に、旅行者でも入れるでしょうか。おすすめ料理は何ですか。
下川裕治(以下=下川):僕が「家庭食堂」と名付けたアハーン・タムサンは、誰でも入ることができます。タイ語が通じないと難しいのでは、と思うかもしれませんが、店の人が一生懸命、簡単なタイ語で訊いてくれます。店の人は、なにかをつくろうという意思がありますから、かならず料理は決まります。
僕がよく行くアハーン・タムサンは、最近いつも滞在しているサービスアパートメントの前にあります。このアパートメントはホテルのように1泊単位でも泊まれるので、そこに泊まる外国人が店にやってきます。なかにはタイ語だけでなく、英語もまったく理解できない人もいます。それでも店の人が、スマホで写真を見せたり、近くで食べている人の料理を指差してくれたりして、オーダーが決まります。店によっては写真付きの簡単なメニューもあります。
ポイントは客がいろいろ考える前に、店のおばさんが誘導してくれること。アハーン・タムサンは注文を聞いて料理をつくる店なので、店のおばさんは応用を利かせてアレンジ料理をつくってくれることは得意技です。おばさんはその客がどれだけタイ料理に慣れているかを推測し、「きっとこれなら大丈夫」という料理をつくってくれます。横で見ていると、まったく言葉が通じない客は、カオパット(チャーハン)やガパオライスになることが多い気がします。誰でも食べることができる料理なのでしょう。
おすすめ料理はアハーン・タムサンごとに、それぞれ違います。客の注文で決まるので、今日もどこかの店で人気メニューになりそうなアレンジ料理が生まれているかもしれません。
僕が通っている店で食べたなかで、かなりのレベルだと思っているのは、ラートナー(あんかけ)。ラートナーをかける主食はご飯でもいいし、麺にすることもできます。キーマオムー(豚肉の激辛炒め)やスキーヘン(春雨炒め)もいい味です。
空港からホテルまでの交通手段、携帯電話、航空券やホテルなどの個人旅行術
──本書では、バンコクの交通事情についても紹介されています。たとえば、旅行者が空港からホテルなどの目的地まで行く場合、地下鉄やタクシー、バスなど、何が安くて便利でしょうか。
下川:スワンナプーム国際空港の場合は、空港からホテルまで最も安い方法は、まずエアポートレイルリンクという電車に乗り、途中のマッカサン駅でMRT(地下鉄)に乗り換えるか、終点のパヤタイ駅で高架電車(BTS)に乗り換える。目的地の最寄り駅まで行き、そこからタクシーで。
ただし、エアポートレイルリンクの空港発の終電は、平日は午前零時。それより遅くなった場合は空港からタクシーになります。タクシーには空港タクシーとグラブタクシーがあります。空港タクシーは支払い時に手数料50バーツを加算します。グラブタクシーはグラブという配車アプリをダウンロードして、それを通して配車するもの。乗車前に目的地は運転手に伝わっているし、料金も確定しているので安心。言葉を使う必要はありません。ただし空港タクシーより高い運賃設定です。
ドンムアン国際空港の場合も、電車かタクシーという構造はスワンナプーム空港と同じです。違いはエアポートバス、路線バス、一般タクシーも使えること。エアポートバスはモーチットまで30バーツ。モーチットからMRTやBTSに乗り換えます。空港の敷地を出て、表通りのバス停で路線バスも利用できます。運賃は冷房なしバスで、8バーツか10バーツ。バス停付近から流しの一般タクシーも使えます。運賃はメーター制。空港タクシーの手数料(50バーツ)は必要ありません。
──タイでの連絡手段、携帯電話などはどうされていますか? eSIMやWi-FIなど、選択肢がいろいろあると思いますが、何がおすすめですか。
下川:訪れる国や滞在日数によって、国際ローミング、eSIM、Wi-Fiルーター、SIMカードなど使い分けていますが、バンコクでは、空港の大手通信会社(AISかTRUE)のブースでSIMカード(ツーリストSIM)を入れるか、市内の大手通信会社の店舗で通常のSIMカードを入れています。日数が短ければどれも料金的には大差はない気がしますが、僕のようにバンコクの滞在日数が確定しなかったり、変更の可能性があるなら、市内の大手通信会社の店舗で現地のSIMカードをいれるのが、安くてストレスがない気がします。現地でのYouTubeライブ配信などがあるときは、途中で容量をあげることもできるからです。
キャンペーン割引などいろいろあるので、料金比較は難しい面がありますが、だいたい現地のSIMカードは1か月で300バーツ前後。現地のSIMなので、タイの地方にいっても通信状態に問題はありません。アプリを入れるときや、民間の両替店で両替するときなど、現地の電話番号が必要になるので、電話番号付きにしています。
──最後に、「バンコクに旅行に行きたいが、久しぶりで勝手がわからない」という場合、飛行機やホテルはどう調べて、予約したらいいでしょうか。
下川:航空券は一般的には、料金比較のサイトを見るのがいいかと思います。僕の場合はスカイスキャナーという検索サイトが使い慣れているので、スカイスキャナーを見ます。ほかのサイトもほぼ同じ内容なので、どれでもいいのですが、使い慣れているものが検討しやすい気がします。バンコク往復航空券3万円台も容易にみつかります。ただ、僕は航空会社のステイタスを維持するために、バンコクの旅行会社を使っています。旅行会社は予約サイトのアマデウスなどを通しますが、航空券のサブクラスが簡単にわかるため、マイルの加算率を計算しやすいからです。
ホテルに関していえば、本書でも紹介していますが、バンコクには居心地のいい中級クラスのレトロホテルが残っています。1960年代に建てられた中規模ホテルで、意外に手ごろな価格で泊まれます。
予約は、アゴダやブッキングコム、エクスペディア、トリップドットコムなど、大手の予約検索サイトはどこも大差ない気がします。僕の場合だと、宿の多くを航空会社のマイレージで貯まったマイルを使ってとっています。ユナイテッド航空のマイレージなので、ユナイテッド航空のサイトで予約していますが、マイルに関係がなかったら、アゴダやエクスペディアを使うことが多いでしょうか。バックパッカー向けのゲストハウスも、今はインターネットで事前に検索、予約する方法が広まっています。