有吉弘行が日々書き留めたメモが一冊の文庫になった『有吉メモ』。発売直後に書店に買いに行ったというタイムマシーン3号のお二人に、後輩として『有吉メモ』はどう映ったのかを聞きに行った。タイムマシーン3号の取材は、ラジオのように淀みなくとても楽しいと評判を耳にしていた編集部。軽快なトークが聞けるはずとワクワクしながら現場に向かったのだが、この日の2人はいつもと様子が違っていて……?

 

 

我々は「有吉」と言ってはいけない村の住民だと思ってください。

 

 

──10月15日に有吉弘行さんの『有吉メモ』が発売されまして、後輩芸人さんにお話をおうかがいできればと思ったのですが……

 

山本浩司(以下=山本):危ないですね……。これは迂闊なこと言うと捕まっちゃいますね……。

 

──気になったメモや有吉さんっぽさが感じられる部分があれば教えていただきたいな、と。併せてお写真撮らせていただければと思います。

 

山本:お写真も……分かりました、はい。怖ぇ~……。

 

関太(以下=関):いまページをめくってたら、「生活が最も苦しかった時期に住んでいた豪徳寺周辺の記憶がなく、住んでいた家さえ探せなかった。記憶喪失の一種か。」っていうのがあったんですけど、この前ラジオのアシスタントやってたときに、まさにこの話が出てました。あ、本当に有吉さんご本人がメモってたんだなって。どうやらゴーストライターじゃなさそうだなっていうのは、確認できました(笑)。

 

──事実確認していただき、ありがとうございます。

 

関:ラジオの最中も「あれなんだっけかな」って、頭の中のメモを引っ張り出してるような感じは見受けられますけどね。(文庫をパラパラめくりながら)「広尾カレーのきっかわこうじ。」って、これは本当にメモっぽい感じですね。

 

山本:書いている内容に、こんなにバラつきがあるんですね。すごいですね、本当に有吉さんの“メモ”なんだろうな。

 

関:“有吉さん”っていうフィルターを1個通してるから、書いてあるメモにも勝手にこっちが深みを感じてしまいますけど、実際は本当のメモもありますね。

 

──走り書きのような?

 

関:そうそう、「パブって何。」とか。これなんて「シーシャ。」しか書いてないじゃないですか! 奥さんに頼まれたものをメモするくらいの感じですよね。「大根、バナナ、シーシャ、牛乳」、それくらいのシーシャですから。思った以上にメモでいいですね。これだけメモだったらみんなも気兼ねなく書き込めますね。これがすべてありがたい言葉とか、人生に影響を与えるような言葉だと書き込みづらいじゃないですか。

 

──確かにハードルが上がっちゃう感じですよね。

 

関:「白メガネ。」だけのメモを見ると、「これは元シブがき隊の布川さんのことなのかな?」とか「自分が白眼鏡メガネかけたらどうかな?」とか、逆にすごく思考の選択肢を与えてくれますね。

 

──受け手側の想像力が広がりますよね。

 

関:それでいて、値段もちょうど690円(税別)!

 

──値段にまで言及いただき、ありがとうございます! 山本さんはいかがですか?

 

山本:『有吉メモ』を見て思うのが、有吉さんってまだ暖簾にあぐらかいてないというか……なんでこんな細かいこと気になっちゃうんだろうなっていうことなんですよね。書かずにいられないくらいの思いだったんでしょうけど、おそらく地位もお金もある人だったら、こういうのすべて気にならなそうな気がするんですけど……。

 

──どのあたりのメモでそう感じました?

 

山本:半分以上そうですよ。みなまで明言していないところは大概、有吉さんが「ん?」って思ってるところですよね。たとえば「一日署長の人選。」っていうメモがありますけど、このあとに続く言葉が「最高!」なわけないじゃないですか。ここで止めるという美学なんでしょうけど、これは読者に押しつけていますよね(笑)。あなたが勝手に悪口を想像してるだけですよねっていう。

 

──なるほど、みなまで言わず、下の句は読者に委ねるというテクニック! 

 

山本:あと、自分に関するメモはやはり気になりますね。太田プロ内で噂が回ってきて……うちのマネージャーから「山本さんのこと書かれてましたよ」って。どのことだろうって……いや多分知らないうちにいくつかやらかしてるんですよ。「山本、よくやった!」でペン走らすことはないじゃないですか。絶対「ん?」って思うときにペンが走ると思うので……。

 

──今回の文庫には掲載ないんですけど、COLORFUL連載の第23回分「タイムマシーン3号の山本が『なんですか! この暗号みたいな文章は!?』って送ってきて、子供がやったと即時に思える想像力ないんかなと思った。」っていうメモはありますね……。

 

山本:いやまあそれに関して。朝一! 朝一ですよ‼ 有吉さんから、あまりにも謎のメールが入ってきたんです。「スペーススペース。あ、てんてんてん。スペースペースペースペース。スペースペースペース。スペースペーススペースペース。てんてんてん」みたいな。こわ! これはきっと『有吉クイズ』(テレ朝系)の企画だなと思ったんです。「謎のメールを送ったら後輩はどう返してくるんだ」みたいな検証企画。でも一方で、そんなのも俺に送ってくるわけないよな、と。有吉さんは事務所の後輩にこんなドッキリをするはずがない、そういうのはジャンポケ太田とかの仕事だなって。じゃあこれ何だ? いや、お子さんっていう可能性もないこともないな……。

 

──あ、一回浮かんだんですね。

 

山本:浮かびましたけど、でもそこに触れるのはプライベートな部分だからやめておこうと思って「何ですかこれ」っていう返信を送ったら、遠回しに連載媒体にてチクッと刺されるという。

 

──直接、有吉さんから言われてないんですか?

 

山本:いや、返信はあったんですよ。「ごめん、子供が何かしたわ」って。で一段落終わったと思ったら、裏で書かれてました……。ひどいですよ、俺には「面倒かけてごめんね」って言ってたのに……。やっぱ“ペンは剣よりも強し”ってやつですよね。

 

──以前より有吉さんとの距離も近くなってきたとのことですが、昔と交流の仕方って変わってきましたか?

 

山本:まあそうですね。有吉さんご自身もご結婚されたり、お子さん生まれたりして丸くなったってみんな言いますけどね。

 

関:後輩たちと遊んでくれなくなりましたから。『有吉メモ』にも「49歳から生活リズムが変わった」ってある通り。

 

山本:あと、すみません。人が人だけに、やっぱりこのインタビューでも迂闊なこと言えないっていうのがあって言い淀んでしまうんですよ。「有吉さん、変わったと思いますよ」の後が出てこないっていう……。我々も選んで言葉言わなきゃなっていうプレッシャーが……。

 

関:将棋の終盤ぐらいに動けないんです。ここに打っていいのかどうかっていう……。有吉さんにキングオブコントの決勝行ったときにお祝いもらったんですけど、それも10年黙ってましたから。そういういい話すら言っていいかどうかわかんないなって思って。

 

──すごい気の遣いようですね……。

 

山本:太田プロ入りたてで有吉さんの楽屋挨拶に行かせてもらったとき「挨拶はお前らのエゴだろ」って言われたんです。失礼のないように挨拶に行ったつもりが「勝手なお前らのエゴで何来てんだよ」って言われて、なるほど確かに俺たちが満足してるだけだなと思ったんです……。

 

関:言われてみると、たしかに俺たちもめんどくさいなと思いながら行ってるから。業界の習わしでノルマをクリアする気持ちで行ってたんです。本当に会いたくて「お願いします」って言いに行ってないなと思って。

 

山本:僕は嬉しいだろうなっていう決めつけで行ってたんですけど、そう思わない人もいるよなっていうことに気づかされまして。これは勝手なエゴだと思い、そこからもう有吉さんと接するときはだいぶこう……。

 

──貝のように口を……。

 

関:ラジオのアシスタントをやらせていただくときも、いつもより背筋を正して。『HUNTER×HUNTER』で出てきますけど、心臓に剣を打ち込まれてるような状態です。うかつなこと言ったらそれがザッと刺さるような気持ちで臨んでおります。

 

山本:それでいて、二の足踏んでて「こいつら来ねえな」っていうのも、フンッ……ていう顔するんで。

 

──難しいですね……。もうなんか針の穴を通すような。

 

山本:だから本来は有吉さんの話したくないですよ。「有吉さんってどういう人ですか?」って聞かれるのが一番困る。

 

──こちらもタイムマシーン3号さんのインタビューは、ラジオのように淀みないって聞いてたから、楽しみで来たんですけど、なんか想定と違って……。

 

関:普段のインタビューと全然違いますよ、それは。

 

山本:片岡鶴太郎さんだったらもういくらでも出てくる! 『鶴太郎メモ』だったらいつでも聞いてくださいよ。「この前ね! また豆食わされて!」とか言いますから。

 

関:鶴太郎さんだったら、ないことも盛ります‼ ただ我々は「有吉」と言ってはいけない村の住民だと思ってください。

 

──なんか呪いのようですね……。

 

関:迂闊には名前を出さない! 失礼がないように!

 

山本:もちろん誰よりも恩を受けてますし、有吉さんがいなかったら、我々なんて今もう下手したらバイトしなきゃいけないぐらいだったかもしれません。そういう恩義をめちゃめちゃ感じてるんで。

 

関:そうですね。

 

──その恩義のエピソードでさえ言うのを憚られる、これは自分のエゴであって、相手にとってはデメリットになるかもしれない、ということですよね。

 

山本・関:そうです、そうです!

 

山本:2年前に有吉さんに予約してもらったお寿司屋さんで新年会したんです。翌年は有吉さんもお子さん生まれたから、我々後輩がお祝いさせてくださいってことで、お店を僕が選んだんです。失礼のないように、ミスのないように、「ここのお店好きなんだろうな」と思って、前年と同じお店を予約したんです。そしたら、「なんで俺が探した店で楽してるんだ」って……言われまして。「お前のオリジナリティってなんだ?」みたいな感じで怒られてまして……。

 

――そのエピソード、ラジオでも有吉さん怒ってらっしゃいましたね。

 

山本:「俺が何年かかけて探した店だろう。なんでお前がそれに乗っかるんだ」って。すみません、ここから先はちょっとまた喋れなくなりました。だからどう思ったかっていうのはちょっと言えません……。

 

関:インタビューって、どう思うかを喋る仕事だろ(笑)!

 

──今、有吉さんにそう言われた、という事実だけ受け取りました。『有吉メモ』みたいなもんですね。皆まで言わない。下の句はグッとこらえる。さて、最後に『有吉メモ』にはメモスペースがありまして、ご自身で好きなように書き込んでいただきたいんですが、お二人なら何を書きますでしょうか。

 

関:僕は有吉さんのメモに「井森さんと忘年会。」というのがあったので、同じページに『新年会はヒデさんと』って書きました。私は群馬出身なので、井森さんだけっていうことはありえないので。井森さん会ったら次ヒデさん。ヒデさん会ったら次、井森さんっていうのを忘れないようにというメモです。

 

 

──さすが群馬県民、ありがとうございます。

 

山本:これマジで何書くかな。本当受け身な人生なんでね……。

 

関:ちょっとトイレ行ってきます。書いたら教えて。

 

──先ほどの山本さんのことが書かれてあったメモのアンサーとかでもいいですよ。

 

山本:じゃあそれそれ書いていいですか。関はどうやって書いたんだろう……。

 

──……こんな歯切れが悪いタイムマシーンさん見たの初めてで戸惑っております。

 

山本:この取材、そちらは結構ライトに頼んできたつもりかもしれませんけど、こっちとしてはヘビーですから。

 

関:(トイレから帰ってきてもまだ書いていない山本を見て)……なあ、飯食ってきていいか。

 

山本:すみませんね。

 

関:……まだかかるか。

 

山本:すみません、もうちょっとマジで……。もう先に次の仕事始めていただいて……。

 

関:俺書こうかもう……。

 

山本:いや、なんかそのメールに対するアンサーだから、具体的なのよ……。どうしようかな……。

 

──私たちはこの集落には来てはいけなかったかもしれないですね……。

 

山本:できました。

 

 

──ありがとうございます。本当に事実だけのメモですね。感情やどう思ったかも一切書かず……。

 

山本:……察してください!