累計178万部を突破した警察小説の金字塔、「犯人に告ぐ」シリーズが、ついに完結!
最終巻『犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目』の刊行を記念して、究極の心理戦を描く第2弾『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』の魅力をあらためて掘り下げます。

 振り込め詐欺一味を検挙した神奈川県警の巻島が挑むのは、日本の犯罪史上に類を見ない新たな誘拐事件。
 緊迫の捜査劇と人間ドラマを、「小説推理」(2015年11月号)掲載の書評家・細谷正充氏によるレビューでお届けします。

 

犯人に告ぐ2 <文庫合本版> 闇の蜃気楼

 

■『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』雫井脩介  /細谷正充 [評]

 

『犯人に告ぐ』の主人公、神奈川県警の巻島史彦警視が帰ってきた。待望の続篇に期待が高まる。これを読まなければ、今年のミステリーは語れない。

 

 2004年の「週刊文春ミステリーベストテン」の第1位に輝き、翌05年には第7回大藪春彦賞を受賞。07年には豊川悦司主演の映画も公開されたベストセラーといえば、雫井脩介の『犯人に告ぐ』のことである。本書は、その続篇だ。『犯人に告ぐ』が単発作品だと思っていただけに、嬉しい贈り物である。これでまた、神奈川県警の巻島史彦警視の活躍が読めるのだ!

 

 劇場型犯罪と劇場型捜査の対決となった〔バッドマン〕事件が解決してから半年。神奈川県警の巻島史彦は、本田明広が実質的な隊長を務めている、刑事特別捜査隊を総括指揮していた。独立性の高いチームが、現在担当しているのは、振り込め詐欺だ。的確な捜査で振り込め詐欺一味を検挙した巻島たちだが、二人ほど取り逃がし、さらには一味のバックにアワノと呼ばれる存在がいることに気づく。また〔バッドマン〕事件で世話になった足柄署の津田良仁の追う殺人事件が、振り込め詐欺と繋がっていたことも判明した。

 

 一方、警察の手から逃れた二人──知樹と健春の兄弟は、淡野に誘われ誘拐ビジネスを始める。〔大日本誘拐団〕を名乗り、最初の誘拐を成功させた三人。次なるターゲットとして、知樹と因縁のある洋菓子メーカー〔ミナト堂〕の社長と息子を狙う。ここから淡野と、事件を担当する巻島の激しい頭脳戦が繰り広げられるのだった。

 

 あの『犯人に告ぐ』の続篇ということで、本を開く前から期待は高まる。そしてその期待は満たされる。克明に描かれた振り込め詐欺の実態も興味深いが、本番はその後の営利誘拐事件だ。ある方法で、誘拐事件の被害者を、自分たちの側に付ける淡野。これにより巻島たち警察側は、獅子身中の虫を抱えた状態で、困難な捜査を続けることになる。だが、さすがは巻島というべきか。淡野の目論見をある程度は看破して、解決のための手を打っていく。水面下で秘かに進行する巻島と淡野の攻防戦が、絶大なサスペンスを生んでいるのである。そこが本書の大きな読みどころといっていい。

 

 また、前作のラッキーマンだった、特別捜査隊の小川かつおの扱いなど、続篇ならではのお楽しみもあり。さらなる続篇を予感させる、ラストもよかった。だから、この書評を見ている読者に告ぐ。すぐさま書店に走るんだ。ネット書店で検索するんだ。必ず読むべきミステリーが、ここにある。