累計178万部を突破した警察小説の金字塔、「犯人に告ぐ」シリーズが、ついに完結!
 最終巻『犯人に告ぐ4 暗幕の裂け目』の刊行を記念して、大藪春彦賞受賞作でもある第1作目『犯人に告ぐ』の衝撃と魅力をもう一度。神奈川県警の異端児は、県警を翻弄した巨悪を逮捕することができるのか?

「小説推理」(2004年9月号)に掲載された書評家・日下三蔵さんのレビューでご紹介します。

 

合本版 犯人に告ぐ

 

■『犯人に告ぐ』雫井脩介  /日下三蔵 [評]

 

捜査担当の警察官が、テレビ画面から犯人に向かって呼びかける──!! 秀逸なアイデアを惜しげもなく投入して、ラストまで一気に読ませる警察サスペンスの大収穫! これを読まずに今年のミステリは語れない!!

 

 雑誌連載中からつづきが気になって仕方のない作品は久しぶりだったが、今回、単行本用にまとまったゲラを通読して、まったく停滞した部分がないことに、改めて驚かされた。もちろん雫井脩介の第五作『犯人に告ぐ』のことである。

 

 まずは著者の軌跡を振り返ってみよう。99年、柔道のオリンピック選考を巡るスポーツ・ミステリ『栄光一途』で第4回新潮ミステリー倶楽部賞を受賞してデビュー。元金メダリストの柔道コーチ望月篠子は、極秘裡にドーピング行為についての調査を行なうが……。二転三転のドンデン返しを盛り込んだサービス精神横溢の一作。

 

 つづく『虚貌』もトリッキーな趣向のサスペンスだった。21年前に発生した元従業員による運送会社社長一家惨殺事件。だが主犯格とされた男が出所した後、犯人たちが一人、また一人と殺されていく──。第3作『白銀を踏み荒らせ』は、スポーツ推理の第2弾。柔道界を去った望月篠子は、アルペンスキーのメンタルコーチにスカウトされ、有力な兄弟選手の兄が事故死した真相を調べることになる。

 

 おやっと思ったのが第4作『火の粉』。元裁判官の隣家に、かつて自分が無罪判決を言い渡した男が引っ越してきた。男はすっかり彼の家族と打ち解けるが、やがて奇妙な異変が……。善意と悪意の境界を絶妙の筆致で描いた迫力の一冊。しかし、「化けた」と思った作品の後に、更に凄い球を放ってこようとは──。

 

 とにかくページを繰る手が止まらない。プロローグに当たる過去の事件だけでも、誘拐ミステリとして斬新なアイデアをいくつも使っているが、メインとなる連続児童殺害事件のほうの、「捜査に当たる刑事がテレビを使って犯人に呼びかける」という設定に度肝を抜かれる。「劇場型犯罪」(マスコミによって国民注視の中で進行する犯罪)に対する「劇場型捜査」という訳だ。姿なき犯人バッドマンと対決する巻島警視をはじめ、各キャラクターの存在感が抜群で、読者もあっという間に観客の一人にされてしまうのだ。

 

 複数の事件が並行して進行するモジュラー型の警察小説では、すべての事件が最後に解決すると、かえってリアリティを損なうことがある。本書は、はっきり解決されない謎(真相らしきものは暗示されるが)を残すことで、その課題もクリアしている。必読書というべき警察小説の逸品である。