大人気シリーズ「出雲のあやかしホテルに就職します」が完結を迎え、著者の硝子町玻璃による待望の新作は、風変わりな女刑事と陽気な死神が命を賭けたゲームを繰り広げるミステリー! ダークな雰囲気が漂いながら、著者らしいコミカルさも健在。ファンはもちろん、初めて手に取る方にもおすすめの一冊です。

 

 今回は書評家・タニグチリウイチのレビューで『死神ゲーム』の読みどころをご紹介します。

 

 

『死神ゲーム』硝子町玻璃  /タニグチリウイチ[評]

 

死神に魂を奪われないために女刑事が挑むことになったのは、死神の仕事を邪魔するゲーム

 

 幽霊や妖怪が見えるからと、幽霊や妖怪が出るホテルに就職させられた時町見初の大変な日々が第17巻でフィナーレを迎えた『出雲のあやかしホテルに就職します』(双葉文庫)の硝子町玻璃が次に挑んだのは警察もののミステリー。でも、浮かぶ想像とは展開がちょっと違うところが、妖怪ホテルとか異世界のお役所といった風変わりな舞台の物語を描いてきた作者ならでは。倉木玲という名の女性警察官がいきなり通り魔に刺されて死んで、魂を回収に来た死神がなぜか倉木に別の誰かが死ぬのを防げたら、あなたの魂は持っていかないという勝負を持ちかけるのだ。

 

 倉木は時に連続爆弾魔の被害に遭った妊婦が流産してしまった事件を調べて犯人を見つけ出し、またある時は、かつて死んだ少女の残留思念が現世に留まり続ける屋敷で死の理由を解き明かすことで死神の執行を阻止し、自分の魂を守る。そこでミステリーらしく謎解きめいたことが行われるけれど、倉木というキャラの言動がどこかズレていて妙に気になる。死神が魂を狙っている爆弾魔が、爆弾を手放さないからと拳銃で撃ち死神を助けるようなことを、平気でしでかしてしまうのだ。

 

 最初から死神に「私の魂取れませんから」と断言したり、自分を「ナンバー38」と言ってどこかに電話をかけたりする倉木って何者なの? そんな興味に物語のクライマックスで答えが示されて「そういうことだったのか!」と驚かされる。自分で持ちかけた勝負とはいえ死神がちょっぴり可哀想に思えてしまう。

 

 女性警察官VS死神という構図から浮かぶ物語への想像をひょいとかわしてみせるアイデアと、コミカルさが漂う文体が読んでいて楽しい。人が誰かを殺める理由の理不尽さに憤り、救われる命があることを喜べるシリアスな味わいもある。もちろん謎解きの楽しさも。「第四章 死神ゲーム」で描かれる、田舎の村で繰り返されていた因習のタネ明かしには仰天だ。

 

 エピローグではよりスリリングなゲームを予感させてくれている。先が楽しみなミステリーの誕生だ。