高校時代、地元で名を轟かせた元不良のサラリーマン。25年ぶりに再会した初恋の同級生は謎に若くてかわいいままだった。高3の夏にいきなり転校して行方不明になったはずなのに、今は何故かヤクザに追われているという──。

 40代のオッサンがかつてコンビを組んだヤンキー仲間と壮大な陰謀に挑む、超弩級のヤンキー冒険小説!

 

「小説推理」2025年4月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューで『俺が恋した千年少女』の読みどころをご紹介します。

 

俺が恋した千年少女

俺が恋した千年少女

 

■『俺が恋した千年少女』斉藤詠一  /細谷正充 [評]

 

高三の夏に転校した少女の抱えていた秘密。25年後に彼女と再会した、元不良の赤城錠一郎と青葉礼司は、歴史の闇に潜む不老不死の一族と対決する。​

 

 斉藤詠一の新刊が刊行された。まず、粗筋を簡単に書いておこう。“元不良コンビVS不老不死の一族”である。いったいどんな話かと思われるかもしれないが、本当にそのような物語なのだ。さまざまなジャンルをクロスオーバーさせた痛快エンターテインメントを、ぜひとも手に取ってほしいのである。とはいえこれだけでは説明不足か。もう少し詳しく内容と読みどころを説明してみよう。

 

 農業関係も取り扱う東京の商社で働く、瞬間記憶能力の持ち主の赤城錠一郎。警察や地方自治体など公共機関の仕事をしている、システムエンジニアの青葉礼司。ふたりは高校時代、赤鬼青鬼と呼ばれていた最強不良コンビだ。とはいえそれも過去のこと。錠一郎は四十肩だし、礼司は妻子持ちである。

 

 そんなふたりが、高校の同窓会に出席。錠一郎の目的は、高3の夏に突然転校した、初恋の同級生・藤野弥生に会うことだった。しかし弥生は欠席。諦めきれない錠一郎は、礼司のアドバイスを受けネットで検索し、弥生がやっているらしいSNSを見つける。だが写真の彼女は、まったく年を取っていなかった。さらに礼司の違法な調査により、不可解な事実が次々と見つかる。やがて二人は弥生と再会するが、『ランガ』という不老不死の一族の陰謀に巻き込まれていくのだった。

 

 第一章の途中から弥生の視点も入り、彼女が不老不死の一族であることが匂わされる。また、第二章では、戦争中にイースター島を目指す潜水艦の運命が、乗り込んだ不老不死の軍医の視点で描かれていく。江戸川乱歩賞を受賞したデビュー作『到達不能極』で、現在と過去を交錯させ、あまりにも意外な真実を明らかにしてみせた、作者らしい作品といえるだろう。なぜ不老不死の一族が生まれたのか。千年にわたる歴史の中で、どのようにしゆんどうしていたのか。そして今、何を企んでいるのか。ストーリー展開が巧みであり、先へ先へと読み進めてしまうのだ。

 

 しかも元不良という、主人公の錠一郎の設定がユニーク。高校時代は弥生の幼馴染だという桐ヶ谷聡と、会うたびに喧嘩。今でも彼女を忘れられず行方を追い、不老不死の一族と対決する。とんでもなくスケールアップする物語の中で、礼司を相棒に、単なる元不良が状況を変えていく。錠一郎の大暴れする様と限りある命を肯定する姿勢が、とにかく魅力的なのだ。ちょっぴり切なく、とっても爽快な気分になれる作品である。