ここは、イケメン神主と美人巫女の兄妹が切り盛りする北鎌倉の一条神社。祀られている神様には不思議な力があり、その神様に選ばれた人は、過去に戻って「やり直し」ができるという。さまざまな後悔を抱えた参拝客たちが、「あの日」に戻って気づかされたこととは──。
もし「あの日」に戻れるとしたら──そう思いを巡らせたくなる「やり直し」の物語、『時帰りの神様』の読みどころを、「小説推理」2025年1月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューでご紹介する。
■『時帰りの神様』成田名璃子 /大矢博子 [評]
過去に戻って「やり直し」ができるという不思議な神社。あなたなら何をやり直す? 共感度MAXのタイムリープ連作短編集、最終話はハンカチ必須だ!
あの日に戻ってやり直したい──。
そんな後悔のひとつやふたつは誰にだってあるだろう。では実際にその機会が与えられたら? 失敗を消してしまえば、すべてうまくいくのか。やり直したとき、人はそこに何を見るのか。これはタイムリープを通して、やり直しの機会を与えられた人々の物語である。
舞台は北鎌倉の一条神社。時の神様を祀る古い社だ。切り盛りするのはイケメンだけどぶっきらぼう&トラウマ持ちの神主と、美人なのに守銭奴の巫女の兄妹。社はおんぼろだけど、それに似合わないオシャレな休憩処で和菓子も楽しめる。少々わかりにくいところにあるが、不思議な猫が道案内してくれるので大丈夫。そして境内の竹林を抜けると、過去の特定の日にタイムリープできる。誰でもというわけではない。選定は神様が行い、実務(?)は兄妹が担うことになる。
いや待って、設定盛り過ぎでは? だが後に、この盛り過ぎに感謝することになる。コミカルな兄妹パートがバランサーとなって、五つのタイムリープの物語から読者もちゃんと「帰って」来られるのだ。それほどまでに個々のタイムリープが胸に迫るのである。
高校時代の告白の失敗を引きずる女性や、管理職の激務で太った男性が、それぞれ「告白しない」「出世を断る」という新しい未来を掴みに戻る。産後の鬱で余裕がなくなり、夫に放ってしまった暴言を取り消したい妻。友達との約束を果たせなかった小学生。時には都合よく過去を改竄していたり、自分に余裕がなくて周りを傷つけてしまっていたりする彼らに、心の共感度メーターが振り切れた。彼らは私だ。応援せずにはいられないじゃないか。
だが、過去を変えるとは、言ったことややったことをただ取り消すだけではない、ということが次第にわかってくる。タイムリープの主眼は、その時には気づかなかったことに気づくという点にあるのだ。後悔するようなことをなぜしてしまったのか。その後悔が何から生まれているのかを見つめ、どう活かすかまでが「やり直し」なのだ。
最終話は、小学生の娘を事故で亡くしてしまった夫婦が時を遡る。死は避けられないという大前提がある。だったら戻って何をする? 彼らの選択に涙が溢れるのを止められなかった。本書の白眉である。
にしても、やっぱり設定盛り過ぎだと思うのだが、これは続きを待てということかな?