授業中にその言葉が本当に怖かった

 

──まったく新しいデスゲーム小説の誕生です。タイトルにすべてが凝縮されていますね。誰かと手を繋がないと死ぬ──基本ルールはいたってシンプル。余ったクラスメイトが次々と無惨な死を遂げ、生き残った生徒だけが卒業できる。クラス27人の生徒は生き残るために必死です。友情、嫉妬、裏切り、いじめ、憧れなどが絡み合い、様々な人間ドラマを繰り広げながらゲームは進んでいきます。まず、この斬新な設定の着想について聞かせてください。

 

木爾チレン(以下=木爾):今でも思い出せるのですが、デスゲーム小説を書こうと思い立ったとき、本当に一瞬にして降りてきて、気がつけばプロットが出来上がっていました。でもそれは、高校生の頃、私がずっと教室の最底辺で息をしていたからこそ、浮かんできたのだと思います。「二人一組になってください」授業中、この言葉が、本当に怖かった。誰も自分と組んでくれない。余っていることが惨めで、いつも泣きたかったです。

 

──木爾さんは2021年に刊行した『みんな蛍を殺したかった』が大ヒット。線路に身を投げて死んだ美少女・蛍の悲劇とその真相を描いた黒歴史ミステリーは若い世代を中心に反響を呼びました。その後も女性の繊細な感情と心の闇を描くミステリー『私はだんだん氷になった』と『神に愛されていた』を刊行していますが、本作は、これまで同様に女性の人間ドラマを描いているとはいえ、よりエンタメ色の濃厚なデスゲーム小説。この作風の変化にはどういう思いがあったのですか?

 

木爾:ひとえに、『バトルロワイヤル』や韓国の『イカゲーム』などのデスゲーム作品が好きで、自分が書いたらどのような物語になるのだろうかという興味がありました。「死」の間際に、人間の浅ましさや美しさや、その全てが垣間見られるのがこのジャンルだと思っていて、そこに自身のテーマである「少女の痛み」を組み合わせたら、きっといい化学反応が起こるはずだとも感じました。でも、これほどまでにエンタメ要素を盛り込んだ作品を書いたのは初めてだったので、今まで以上に脳をフル回転させる必要がありました。悩んでいるうちに締め切りもどんどん迫ってきて、執筆自体がデスゲームとなっていたんです。(笑)

 

特別授業のルール抜粋

 

──特別授業のルールは見事でした。余ったら死ぬ、同じ人とは2回組めない、という基本ルールの他に、[特定の生徒が余った場合は、特定の生徒以外全員が失格]という項目に、クラス全員が「空気みたいなあの子のこと」だと判断し、全員が[特定の生徒]を最後まで生き残らせることに躍起になります。この瞬間にクラス内カーストは完全に崩壊しました。三軍最下層の生徒が普段はやりたい放題の一軍より大事に扱われるわけですから、このゲームがなければ絶対にありえない状況でした。ルールとゲームの進行、そこに人間ドラマを絡み合わせる構成は複雑です。書くのは大変だったのではないですか?

 

木爾:もし自分が高校生のときにこのゲームが始まっていたら、孤立していた私は必ず最初に失格になっていたでしょう。だって誰も私とは手を繋ぎたがらないだろうから……。そのとき、どうしたら最下層の生徒も平等にこのゲームに参加できるだろうと考える必要があるなと感じました。ルールは最初から決まっていたものもあるし、書くにつれて変更したものもあります。【一度組んだ相手と、再び組むことができない】というルールもあるので、手を繋ぐ順番など、本当に何度も確認しながら物語を構成していきました。血を吐きそうな作業でした。

 

3年1組カースト表

 

自分を犠牲にしても友達を守りたいと思う気持ち

 

──3年1組の生徒の名前は特徴的で覚えやすく、キャラクターも個性的です。一軍を超越する美少女・花恋、一軍ユーチューバーの羽凜、二軍中層の生徒会長・留津、三軍最下層で[特定の生徒]美心。これらの生徒はどのようにして生まれたのでしょうか? モデルとなった人物はいますか?

 

木爾:キャラクターの個性についてはこだわりがあり、一人一人、外見と性格を示した表を作ってから書き始めました。絶対に、27人全員を覚えてもらうんだという意気込みもありました。しかし、モデルとなった「人物」はいないのです。ただ、家で飼っている猫の性格をモデルにした生徒もいます(笑)。私を推してくれている読者の方ならわかるかもしれません。

 

──デスゲームなので、物語は後半になると人数が減り、そこからが本当のドラマの始まりとなります。「無自覚の悪意によるいじめ」とはなんなのかが見えるとともに、登場人物の秘められた過去が明らかになり、ゲームの勝者=卒業生が決まります。どういうところに注目して読んでもらいたいですか?

 

木爾:誰しもそうだと思うのですが、自分がいちばん大切であり、自分が不幸でなければいいという心を、少しくらいは持っていると思います。それは自然なことです。でも、そういう意識がひとクラス分集まったら、それは誰かにとっての脅威になるかもしれません。一方で人は、大切な誰かを、自分を犠牲にしても守りたいという尊い心も持っています。そして大切な人がそばにいるからこそ、生きる希望が持てるのだとも思います。この残酷な物語にちりばめた、人が持つ美しさを感じ取ってもらえたらうれしいです。

 

──木爾さんの夫である小説紹介クリエイターのけんごさんは本作をお読みになっているのでしょうか? けんごさんからは「身内となっただけに評価は厳しい」とお聞きしましたが……。

 

木爾:今回は校了前のゲラはまったく見せずに、見本が届いて初めて渡しました。「目の前で読まれるのは恥ずかしい」と夫に言ったら、私が文学フリマで遠征している間に読んでくれて、すぐに感想を言ってくれなかったのでドキドキしていたのですが(絶対に直接言いたいとのことで。笑)、家に帰ってきての第一声が「二人一組、めっちゃよかったよ!!」だったので、凄く嬉しかったです。二度も読み返してくれて、1時間くらい面白かったポイントを語ってくれて(伏線に全く気がつかなかった……とか)、「頑張って書いたね」と褒めてくれて、全ての苦労が報われた気がしました。

 

──夫婦も二人一組……ごちそうさまです!