大ベストセラー『神々の指紋』で世界を驚愕させたグラハム・ハンコックが、考古学や遺伝子解析の最新研究を元に「真の人類史」解明に挑む。「北米大陸には13万年前から人類が住んでいた」「南米古代先住民とオーストラリア先住民は共通のDNAを持っていた」「アマゾンは古代人が生み出した人造ジャングルだった」──従来の常識を塗り替える発見の数々! 話題の名著、待望の文庫化。

『人類前史』の読みどころを、サイエンスライターの川口友万さんのレビューでご紹介します。

 

人類前史 上 失われた文明の鍵はアメリカ大陸にあった

 

■『人類前史 失われた文明の鍵はアメリカ大陸にあった 上・下』グラハム・ハンコック  / 川口友万[評]

 

 3500年前に航海技術が発明されたという歴史を裏切り、人類は少なくとも6万年前にはオーストラリアから北米大陸へと渡海していた。最新のレーダー技術により、南米のジャングルには隠された未発見の古代文明が複数ある。アマゾンは人類による植林から始まった。最新作『人類前史』でグラハム・ハンコックが突きつける事実は、教科書で習った歴史を完全にひっくり返す。

 

 私たちはどこから来て、どこへ行くのか? それは私たち人間にとっての究極の問いであり、すべての科学と思索は、最後はそこへと至る。

 

私たちは何者なのか?

 

『神々の指紋』がベストセラーとなったハンコックには独自の仮説がある。現在の文明に先行して、現生人類が生まれたばかりだと考えられる超古代に、16世紀レベルの数学や天文学を持つ文明があったという説だ。これは一般的な通説を軽く10万年以上さかのぼる。ハンコックは南北アメリカ大陸に残された遺跡群とエジプト文明の関連からひも解こうとする。

 

 北米大陸に人類はいつ到達したのか? 古代ゾウであるマストドンが捕食され、骨の砕かれた化石が北米大陸で見つかった。そんなことをする動物はいない。その周囲に散らばる、石器に似た石。つまり、そこに人間がいたということか?

 

 しかし、人類がアフリカからユーラシア大陸へ進出したのは14万年と考えられている。この時の人類は、現生人類よりも原始的で、猿人に近かった。しかも、北米大陸で見つかったマストドンの化石は放射能測定により、およそ13万年前と判明した。ありえない。

 

 さらに、南北アメリカ大陸で次々に発見されるアースワーク(地面に作られた巨大な地上絵や構造物)は、正確に夏至と冬至、東西南北の方位を示している。いずれも5万年以上前に作られているのに……。

 

 エジプト文明と北米インディアンの宗教観が酷似している。なぜか? エジプト文明が北米に伝えられた? ハンコックはそうではないという。2つの文明に先行する超古代文明があったのだという。ハンコックが自身の著作で何回も触れている、失われた高度な文明人たちがエジプトなど古代文明の宗教観を生み出した。エジプト文明と北米インディアンは先行する超古代文明から知識を得たのだ。

 

 星々の運行を正確に把握する天文学と巨大なアースワークや巨石都市を作り出す技術力、それを証明する世界のあちこちに断片的に残された彼らの指紋。

 

彼らはなぜ消えたのか?

 

 ハンコックは1万2800年前に起きたヤンガードリアス隕石群の衝突が原因ではないか? と予測している。北米大陸を中心にユーラシア大陸のおよそ半分に降り注いだヤンガードリアス隕石群は大火災を引き起こし、さらに巻き上がった噴煙はその後に氷河期を発生させた。

 

 地上の約1割の動植物を焼き尽くし、35種の哺乳動物を全滅させたヤンガードリアス隕石の大災害は、当時、おそらくあっただろう超古代文明をも消滅させた。彼の文明は当時の狩猟民族である、私たちの文明の直系の先祖たちに受け継がれ、ピラミッドに代表される巨石遺構として伝えられた。

 

 ヤンガードリアス隕石群の衝突が想像を絶する大災害をもたらしたとしても、彼ら超古代文明人の痕跡が一切消え去っているのは妙だとハンコックは言う。残されているアースワークは、非常識なほど古いが、それはあくまで超古代文明人から教えられた技術の名残りだ。ピラミッドを作ったのはエジプト人であって、超古代文明人ではないのだ。

 

 ハンコックは言う、彼らは現在の私たちとはまったく違う科学体系を築いていた可能性がある。だからこそ彼らの直接的な遺構や文化は残されていないのだ。その鍵は「死」にある。古代文明に共通する死者の書、死んだ後、魂がどのような運命をたどるのかが書かれた書物には、オリオン座と天の川が出てくる。超古代文明人は、現在の私たちのすべてが物質に還元されるという一元論ではなく、肉とそれを司る魂があるという二元論に基づく文明を築き上げていたらしい。魂が存在すると世界はどのように変わるのか? そこから生まれる文明とは何か? 想像を超える結論に戦慄してほしい。そして誰もが、本書を読んだ後、本を前に考えることになるだろう。

 

 私たちは……どこから来て、どこへ行くのか?