空前のホラーブームといえる昨今、『異端の祝祭』から始まる「佐々木事務所」シリーズを筆頭に、多彩な作品を発表し続け、今最も注目されるホラー作家の一人である芦花公園の最新作は、京王線の沿線を舞台に「幽霊」を探す一組の男女を描く連作短編集。作品の読みどころと新境地に挑んだ意気込みについて、著者に語ってもらった。

 

未知のものを見ると、正体はどんなものだろう、もしかしてこういう意味があるのではないか、と考えてしまう。

 

──今回の新刊『眼下は昏い京王線です』は、デビュー以来書かれてきた作品と比較して、少し毛色の違う1冊のように思います。本作はどのようなイメージを持って執筆されたのでしょうか

 

芦花公園:最初は怖い要素はなく、ほんの少し不思議なことが起こるだけのラブストーリーを書こうと思っていました。しかし書いているうちにやっぱり怖い要素を入れた方が面白いかもしれないと思い、こういう形に落ち着きました。上京してきた純朴な少女が悪い男にのめり込む、というよくあるパターンの話ではありますが、二人の関係性の変化に注目してほしいと思います。

 

──各章で語られる怪異はもちろん、主人公である琴葉とシマくんのキャラクターもとても印象的な作品でした。2人を描くうえで、特に気にかけていた部分などはありますでしょうか?

 

芦花公園:両方とも極端な個性は持たせず、その辺にいそうな人間として書くように気を付けました。私は気を抜くと美形を登場させてしまうのですが、今回は我慢しました。琴葉はややお人よしでどん臭い女子大生、シマくんはバンドマン風で何の仕事をしているか分からない男性です。東京にはよくいると思います。

 

──タイトルにも入っているように、今回の作品は全編通して京王線の沿線が舞台となっています。京王線を舞台に物語を描こうと思ったきっかけなどはありますか?

 

芦花公園:ペンネームが「芦花公園」ですので、いつかは京王線の話を書かなくてはいけないと思っていました。また、ロードムービーが好きなので、いつかこういう各所を廻る話を書きたいと思っていました。ちょうどよかったです。どこの駅も行ったことのある場所なので、余計に。

 

──『このホラーがすごい!』(宝島社刊)の刊行に代表されるように、近年はホラーというジャンルにひときわ注目が集まっているように感じます。ホラー作品の魅力や可能性はどういったところにあると思いますか?

 

芦花公園:近年のホラージャンルへの関心の高まりは、主にオタク層の考察文化と密接な関わりを感じます。オタク層でなくても、未知のものを見ると、正体はどんなものだろう、もしかしてこういう意味があるのではないか、と考えてしまうのは、人間誰しも持つ習性です。ホラーというのは怖いだけのものでなく、興味深く、原始的な感情を揺さぶられるものですから、怖いものが苦手な人にも試してみて欲しいですね。

 

──短編作品なども含め、これまでも様々なタイプのホラーを描いてこられましたが、今後扱ってみたいテーマなどはありますでしょうか?

 

芦花公園:今までの作品ではいま私たちが生きている世界で起こる恐怖を描いてきました。舞台がこの世界だと分かるように、実在の駅名や、作品名などを敢えてたくさん出してきました。もし機会があれば、文明の全く異なる世界で起こる恐怖を書いてみたいですね。

 

──最後に、本作を手に取ってくれる読者に向けて、メッセージをお願いします。

 

芦花公園:一方的で献身的な全力の恋がどういう結末を迎えるのか、ぜひ見てみてください。