「新宿鮫」シリーズなどでハードボイルドの魅力を世に広く知らしめてきた作家・大沢在昌。その初期の代表作が、法律事務所の失踪人調査人として働く青年が活躍する「佐久間公」シリーズである。
この伝説的シリーズが40年ぶりに4カ月連続で復刊されることになり、このたび、幻のデビュー作を収録した最初の短編集『感傷の街角』が第2弾として刊行された。
1970~80年代、都会の喧噪に姿を消した若者たちの行方を、法律事務所の若き調査員・佐久間公が追う物語。11年前に別れた女性を捜す「感傷の街角」、劇場で変死した人気俳優の死の真相を探る「サンタクロースが見えない」など、全7編を収録した粒ぞろいの一冊だ。
彼らが失踪した背景には、当時の若者が抱えていた生きづらさが見え隠れし、複雑な物語が展開する。人生のほろ苦さを、若き日の大沢氏が等身大の視点で描いた本作は、ハードボイルド初心者にも馴染みやすく、ジャンルの入門としてもおすすめの1冊だ。
「小説推理」2024年10月号に掲載されたTSUTAYAサンリブ宗像店・渡部知華さんのレビューで、『感傷の街角 失踪人調査人・佐久間公2』〈新装版〉の読みどころをご紹介する。
■『感傷の街角 失踪人調査人・佐久間公2』〈新装版〉 大沢在昌 /TSUTAYAサンリブ宗像店・渡部知華 [評]
「佐久間公シリーズ」4カ月連続刊行第2弾は、「小説推理新人賞」受賞作も含めた短編集。古き良き時代の煌びやかかつダークな街の様子や当時の人々の生活にも触れられる一冊だ。
私が大沢作品に出会ったのは、高校2年生、読書に目覚めたばかりの頃だった。作家もジャンルも問わず、とにかく手当たり次第に本を読んでいた。
心にヤンチャを飼っている、新人文学少女であった私は、大沢ワールドに足を踏み入れた瞬間、ここが私の居場所だったのか! と、夢中になって大沢作品を読み漁っていった。
現実の世界では到底味わう事のできない体験を、ここでなら思う存分楽しむ事ができる。酒と煙草と女の匂いが漂う、大人の世界の虜になった。
特に探偵が活躍する作品は大好物で、この『感傷の街角』はまさに、イカした探偵が大活躍。私の中のヤンチャが疼き出す作品だ。
さて、『感傷の街角』は、1979年に大沢さんが第1回小説推理新人賞を受賞された作品となる「感傷の街角」などを収録した短編集だ。1980年にノベルスとして刊行された『標的走路』の次の作品、佐久間公シリーズの第2弾である。
大手法律事務所で失踪人調査を専門に勤めている佐久間公は、どこかお人好しでチャーミング。それでいて漢気があり、関わる相手の懐にすっと入り込んでいく。そんな佐久間公の発言や所作に痺れ、豊富な人脈と持ち前の行動力に納得する。
彼はまさに人捜しのプロ、探偵だ。そしてこの作品では、彼の濃厚な仕事ぶりをいくつかの物語として楽しむことができる。
今ではなかなか味わうことのできない、独特の刺激もまた心地好いのではないだろうか。
古き良き時代の煌びやかでダークな街の様子や人々の生活は、眩しいような懐かしさを感じたり、むしろ新鮮で真新しさを感じたりと、読み手によってその姿を変えることだろう。
大沢在昌伝説の始まりと言っても過言ではない、「感傷の街角」が収録されたこの一冊。新装版となったことで、始まりの瞬間に令和の時代に立ち会うことができる。なんて贅沢なことだろう。そしてきっと、たくさんの人々のハードボイルド欲を満たしてくれるはずだ。
かつての仲間もはじめましての方も、おかえりなさい、そしてようこそ。大沢ハードボイルドの世界へ。