演劇女子学校内一の天才と謳われる少女・設楽了。彼女は俳優の能力を引き出し、観客を魅了する舞台を作り上げる卓越した才能をもっていた。次第に周囲から「神」とまで崇められる了は突然、自分の手がける演劇の上演中に舞台から転落死する。不幸な事故だと片づけられたが、翌年の春に入学してきた新入生は全校生徒の前で高らかに宣言した。「わたしは、設楽了の死の真相を調べに来ました」──。

『女王はかえらない』で第13回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、「偽りの春」で第71回日本推理作家協会賞(短編部門)を受賞したミステリー作家・降田天の最新作は演劇を愛する女子学校で起こる青春学園ミステリー小説!

「小説推理」2024年10月号に掲載された書評家・吉田伸子さんのレビューで『少女マクベス』の読みどころをご紹介します。

 

少女マクベス
少女マクベス

 

■『少女マクベス』降田 天  /吉田伸子 [評]

 

神と崇められた天才少女は何故死んだのか。学園ミステリ+シェイクスピア「マクベス」=胸熱の青春小説!

 

 演劇に携わる人材を育成する教育機関、「百花演劇学校」。中学もしくはこれに準ずる学校を卒業した女子のみが入学資格を有するその学校で、圧倒的な才能で絶対的存在として君臨していた設楽了。彼女は制作科2年時の定期公演で、舞台から奈落に落下する事故で命を落としていた。

 物語はその翌年の4月、新入生歓迎公演の終演と同時に幕を開ける。観劇後、挨拶を終えた校長はある一人の生徒を指して、公演の感想を求める。「1年1組、藤代貴水です」と名乗ったその生徒は、先ほど、進路が決まっている人は? という校長からの問いに挙手しなかった生徒だ。

 進路は決めていない、自分がこの学校に来た目的は他にあるので、と前置きした上で、公演の感想を述べる。そして、「去年の定期公演で脚本・演出を手がけたのは、設楽了ですよね」と。「それがどうかした?」と剣吞な表情で尋ねる校長に、貴水は告げる。「わたしは、設楽了の死の真相を調べに来ました」。

 この、冒頭の貴水の爆弾発言で一気に高まった緊張感は、以後1ミリも緩むことがないまま、物語の終盤まで読者を引き込み続ける。

 全寮制の女子校、という王道の青春学園ミステリの舞台に、「演劇」というテーマを投げ込んだ本書は、ミステリとしても、演劇小説としても、そして青春小説としても読み応えたっぷり。とりわけ、まだ心に柔らかい部分をたっぷりと残している思春期の少女たちの、その揺れ動く心が鮮やかに描かれているのがいい。

 貴水の強引さに巻き込まれる形で、了の死の謎を追う貴水のバディのような役割となる、了と同学年の制作科3年の結城さやか。死の直前、了が漏らした「魔女」という言葉に合致する、了が作・演出を手がけた「百獣のマクベス」で魔女役を演じた3人、俳優科3年の乾綾乃と加賀美綺羅、神崎氷菜。この3人が、それぞれに秘めていたドラマが、ひりつくようなリアルさで迫る。

 何よりも、「神」とまで崇められ畏れられてもいた了の、演劇への傾注ぶりは痛々しいまでに凄まじい。芝居とは、舞台とは、こんなにも人を虜にするものなのか。こんなにも犠牲を強いるものなのか。その犠牲を捧げたものの上にしか咲かない薔薇なのか。

 了の死の真相、は実際に本書を読まれたい。全編を貫く作者の“本家「マクベス」”への深い愛と理解と敬意にも胸を打たれる一冊である。