2024年8月、アメリカ西海岸で大地震が発生。28年のロサンゼルス夏季五輪の開催が困難になり、東京代替開催案が浮上し、スポーツマネジメント会社社長は実現に奔走することに。果たして、コロナ禍と裏金問題で呪われた東京2020の汚名を返上できるのか──!?

「小説推理」2024年10月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『聖火の熱源』の読みどころをご紹介します。

 

聖火の熱源

 

■『聖火の熱源』鷹匠裕  /大矢博子 [評]

 

カネにまみれた五輪をぶっ潰すため、小さなスポーツマネジメント会社が立ち上がる。こんな五輪が見たいと思わせる経済エンターテインメント、ドラマ化熱烈希望!

 

 読みながら「無理だ」と「こうあってほしい」の間で、ずっと気持ちが揺れ動いていた。そして気づくのだ。無理だなんて、誰が決めた?

 物語の始まりは2024年8月。アメリカ西海岸を大地震が襲う。その被害は甚大で2028年に予定されていたロサンゼルス夏季五輪は開催が困難になった。代替地として浮上したのが、前回の施設が使える東京だ。

 代替開催の準備を命じられたのは外資を本社に持つスポーツマネジメント会社の社長・猪野一斗。しかし東京は汚職にまみれた前回の五輪の汚名がいまだ消えていない。求められるのはカネや利権の絡まない、アスリートと観客のためのクリーンな五輪だ。

 知恵を絞って金のかからない五輪を進める一斗たちの前に立ち塞がるのは、政治家に広告代理店、マスメディア。利権ありきのオリンピックからの脱却ははたして可能なのか。そしてその方法とは──。

 オリンピックがカネにまみれていることは最早周知の事実だ。私たちはそれを知りつつも、アスリートの美技には興奮するし、その結果に一喜一憂してしまう。アスリート自身もおそらくはさまざまなしがらみを抱えつつも、メダルを目指して日夜研鑽を積んでいる。この矛盾はどうにかできないのかと、もやもやした気持ちは増す一方だ。

 本書はその状態をオリンピックの歴史を掘り下げながら解説し、ではどうすればいいのかをひとつの形で提示したシミュレーション小説である。だがしかし、いやあ、ここまで切り込むか! 固有名詞はすべて架空のものだがだいたいモデルはわかるし、その上でこんな展開にしちゃって大丈夫ですか、と心配になることも。

 だが、だからこそ面白い。圧倒的なリアリティと、夢物語すれすれの計画。必要な予算をクラウドファンディングで募るあたりは予想したが、その返礼の面白さ! さらにはテレビではなくネットを駆使した体験型観戦など「できるかもしれない」「こんなオリンピックを見てみたい」という希望に満ちた展開には胸躍らせた。

 相次ぐ妨害を潜り抜けて目標まで駆け抜ける様は一級品の経済サスペンスだし、その途中にある涙を誘う人間ドラマも見逃せない。これだけ現実社会の問題をあぶり出しながらもエンターテインメントとしての芯があるのだ。変わろうと思わなければ変わらない、と励まされた。これTBSの日曜劇場あたりで映像化してほしい!