警察庁直轄の諜報組織『十三階』。情報を取り、テロを阻止するためなら非合法な活動も厭わない工作員集団だ。その『十三階』を舞台にした、吉川英梨の人気警察小説シリーズ第三弾が上梓された。『十三階』の古池慎一と黒江律子が結婚するなど、シリーズの読者にとっては驚くべき展開が待ち構えている。はたして彼らに、何があったのだろうか。

 現場で重傷を負った古池慎一が『十三階』に復帰したとき、黒江律子は消えていた。校長と呼ばれる『十三階』のトップの藤本乃里子は、退職したと言うだけだ。しかし古池は、出席した政治家のパーティーで、律子と出会う。彼女は長谷川亜美と名乗り、沖縄3区選出の衆議院議員・儀間祐樹の公設第二秘書をしていた。地下駐車場で激しいセックスをするふたり。その後、パーティー会場に戻った古池は不審な人物を捕まえる。だがそれは陽動であり、官房長官がヒ素を飲まされ倒れたのだった。一週間前に首相官邸に、ヒ素と普天間基地辺野古移設に反対する趣旨の文章が送られてきた件と関係があるのか。辺野古の活動家の中に、新左翼集団『第七セクト』の元ゲリラがいたことから古池は、かつて利用して捨てた第七セクト絡みの元情報提供者・広井愛花に再接近する。

『十三階の女』『十三階の神(メシア)』は律子が主人公だったが、本書の中心は古池である。金・暴力・肉体……。目的のためには手段を問わない古池は、広井愛花を再び籠絡。しかし愛花が彼の子供を妊娠することを望んでいるとを知る。

 その一方で、儀間と夫婦になったはずの律子が、いきなり婚姻届を送りつけてくる。律子の真意がわからないまま婚姻届を出した古池だが、これも彼女の潜入調査に関係しているのだろうか。
 律子と愛花の間で心を揺らす古池と書くと、まるで恋愛小説のようだ。しかし男女の感情の縺れは、公安刑事とテロリストの戦いというストーリーと絡まることで、異様な迫力をもって読者に迫ってくる。三里塚闘争の最中に起きた事件の真相や、第七セクトのトップの意外な正体など、ミステリーの面白さも抜群。終盤からラストにかけての怒濤の展開にも圧倒された。

 さらに女性たちの想いを通じての血の継承が、本書を貫くモチーフになっている。それを国家と重ね合わせたとき、見えてくるものは何か。今の日本人が考えるべきテーマが、示されているのである。