亡き人から届いた思いがけない贈り物の中身は、一体どんなものなのか? “遺品配送”がテーマの「天国からの宅配便」シリーズだが、その心温まる物語は日本国内のみならずドイツからも出版オファーがあるほど感動の声が止まらない。

「小説推理」2024年6月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『天国からの宅配便 時を越える約束』の読みどころをご紹介します。

 

天国からの宅配便 時を越える約束

 

 

■『天国からの宅配便 時を越える約束』柊 サナカ  /大矢博子 [評]

 

亡くなった人からの遺品が届く。しかしもしそれが迷惑なものだったら──。蓋をしてきた過去に向き合う4つの物語を紡ぐ、人気シリーズ第三弾。

 

 特定の誰かに渡したいものを託しておけば、自分が死んだあとでそれを相手に届けてくれるという、いわば遺品配達──それが天国宅配便だ。託す側、受け取る側の物語を意外性とともに細やかに綴って好評を得、本書でシリーズ第三弾となる。何を隠そう私も続きを楽しみに待っていたひとりだ。いやあ、いいんだよなあ、これが。

 何がいいって、いくらでも綺麗事が書けそうなこの設定で、きちんと現実の辛さを描いた上で、それを乗り越えていく様子が描かれるのがいいのだ。

 第1話は、家族に散々迷惑をかけて出ていった姉の遺品を届けられた妹の話。自分勝手な姉は妹にとって忌まわしい存在でしかなかったのに、何を今更。

 第2話は小さな食堂の経営者から、常連だった女子高生に届けられた最後の営業日の招待状。しかしその女子高生は、その店主を殺したのは自分だという罪の意識に苛まれていた。その理由とは?

 第3話はシェアハウスに隠れ住むように暮らしている訳ありらしい女性のところに、小学校時代に愛読していた漫画の作者からの手紙が届けられる。

 そして第4話は美術館で老人と高校生が出会う物語だ。どうやら老人のもとに〈天国宅配便〉を通して入場券が届けられたらしいのだが、送り主や経緯については序盤では明かされない。

 今回の4編に共通しているのは、送られた側の変化にスポットが当てられているという点。これまでは送った側の気持ちを送られた側が受け止めて……というケースが多かったが、今回はむしろ迷惑に思っている話が目立つ。だがそれがポイント。それはこの4話とも、それぞれの主人公がその遺品をきっかけとして自分の心の中をもう一度覗き込むことを主軸に置いた物語だからだ。

 姉を許せないという思いの根底にあったもの。食堂に行けない罪悪感。忘れてしまっていた昔の夢。そして目を背け続けてきた、とある現実。彼らは遺品を通してそれらと向き合い、そしてひとつの道を選ぶ。ここでは何を送ったかは問題ではない。それによって彼らの中の何かが揺り動かされるという事実こそが鍵なのだ。

 このシリーズ第三弾は「忘れていたこと」「蓋をしていたこと」を思い出す物語集と言っていい。新たな一歩を踏み出す彼らを応援せずにはいられない。〈天国宅配便〉の真骨頂がここにある。