世界20カ国以上で翻訳が進行中の『人生写真館の奇跡』の作者・柊サナカ氏が“遺品配送”をテーマに書いた「天国からの宅配便」シリーズ。最新刊となる『天国からの宅配便 時を越える約束』がいよいよ発売された。亡き人から届いた思いがけない贈り物の中身は、一体どんなものなのか? 四作収録された短編には、それぞれの受取人が様々な思いを背負い、それでも今生きている瞬間を大切にしようと一歩を踏み出す姿が描かれている。生きる希望を届ける本作を執筆した柊氏に、作品にこめた思いをうかがった。

 

いろんな人物やストーリーを描くために「感情揺れメモ」を作ってます

 

──『天国からの宅配便』シリーズ最新作が刊行されましたが、この遺品配送の物語を書こうと思ったきっかけはありましたか?

 

柊サナカ(以下=柊):わたしは学生時代に、友人と組んで電話帳を届ける短期アルバイトをしていました。地図を見て、車で家をまわり、新しい電話帳を持っていきます。古い電話帳は回収しなければならないため、人と話すのがあまり上手ではないわたしも、ドキドキしながら呼び鈴を押して「こんにちは! 新しい電話帳をお持ちしました!」などと言っていたのを思い出します。

 その時に、お届け先のお家が本当にひとつひとつ違っているという、当たり前のことに驚きました。次のお家はどんなところだろう? などと思いながら電話帳を配達していたのです。

 

──珍しいアルバイトですね! 「届ける」というお仕事を実際に経験されていかがでしたか?

 

柊:ほんの数日のアルバイトでしたが、夏の暑さと、電話帳の重み、道に迷ったりしながら、いろんなお家に行ったこと、それらはずっと記憶に残っていて、何かをお届けするという仕事は、人の人生に少しだけ触れる仕事なのかもしれないな、と思っていました。

 わたしが配達していたのは電話帳で、どれも一緒で驚きも何もないものでしたが、これが、何か驚くようなものだったらどうだろう? それがプレゼントだったら? びっくりする人からのお届け物だったらどうだろう……などと想像をめぐらせて、何が届いたら一番びっくりするかな、と考え、亡くなった人からのお届け物だったらすごくびっくりするだろうなと……。

 最初は、エピローグのような、届ける側の心の動きで何話分か考えていましたが、担当編集者から「これは受け取り側の視点で行きましょう」と提案され、現在の形となりました。今思えば、受け取り側の視点になったことで、この「天国からの宅配便」シリーズは、何倍も面白くなったと思います。エピローグで七星が届けに行くときに、少し緊張したり髪を直したりするのは当時のわたしの記憶からです。なんでも経験してみるものですね。

 

──今作「時を越える約束」に収録した四作の短編について、特に印象に残っている作品はありますか。

 

柊:今作『天国からの宅配便 時を越える約束』の三話「いつかのファンレター」は、今までいただいたファンレターのことも思い出しながら書いたりしたので、自分でも思い入れがあります。

 あと、たいてい誰の家にも“困った親戚”というのが一人くらいはいると思うのですが、わたしにも父方に困った親戚がいて、ずいぶん振り回されました。一話の「パンドラのひみつ箱」は姉妹で、姉の方がほんとうに家族に迷惑をかけるキャラクターです。書いているうちに自分でもいろいろ思い出してしまって、妹にあまりに感情移入しすぎて筆が走りすぎ、気が付いたら心理描写がめちゃくちゃ長くなってしまったりして、あとで指摘されだいぶ削りました。この「時を越える約束」に活かされたので、困った親戚にもほんの少しだけ感謝しておきます。

 

──今作のエピローグでは、「最後に贈り物をしたいけど、送り先の相手が思い浮かばない」佳郎という人物が登場します。実際にはこのように考える方は多いのかもしれないと思いました。

 

柊:佳郎は、「天国からの宅配便」シリーズで、今までにいなかったタイプの登場人物だと思います。今の世の中、SNSなどのつながりで何百人もの人とたくさんつながっているようで、最後の贈り物ができるくらい近しい人って実は少ないのでは? と思ったのがきっかけとなりました。それでも、寂しい終わりじゃなくて、なんらかの希望を天国宅配便で書けたらいいなと思いました。

 

──主人公の七星を軸にシリーズ作品を書いていく上で、意識していることや、気を付けていることなどはありますか? またシリーズを通して様々な境遇の受け取り人が出て来ますが、どのようにして設定やアイデアを見つけられていますか?

 

柊:例えば、死んだ人が光の中から現れて霊パワーで問題が解決するとか、何らかの超自然的な力で物事がいい方に向かうという話も、それはそれで好きだし、いいと思いますが、この「天国からの宅配便」に関しては、死は生とは断絶されていて、遠い川のむこう、というスタンスは崩さないように気を付けています。超自然的な要素も封印しています。ですから、「天国からの宅配便」シリーズは、ファンタジー系の話を敬遠する読者の皆様にも楽しんでいただけると思います。

 どうやって話を思いついているかなんですが、わたしは話を感情から組み立てるのが好きで、感情揺れメモ、みたいなものを作っています。内容は“亀が一匹だけぽつんといる”とか“引き出しの奥から小さなハンカチが出てきた”みたいな、ほんのささいなことです。そういう小さな揺れを集めておいて、あとで見返すと急に物語が立体化されるときがあるので、それを形にします。

 

(後編)へつづく​

 

【あらすじ】
依頼人の死後に届けものをするサービス「天国宅配便」の配達人・七星が贈る感動のシリーズ第3弾! 姉を許せないまま生き別れた女性に届いた小包み。高校生が通う大好きな食堂の営業最終日。子供の頃ファンレターを送った漫画家からの思いがけない返事。老人が美術展で知り合った少年と交わした“賭け”……。心温まる4編+エピローグを収録。