父の不倫と認知症、定職につかない兄、不満を抱える姉、仕事やめた末弟。「家族と書いて面倒と読む」タイプの一家に起きた「父の失踪」という事件。『全裸監督』の脚本家が描く、「仲良くない普通の家族」の物語。

 単行本『されど家族、あらがえど家族、だから家族は』を『だから家族は、』と改題し、文庫化。

「小説推理」2020年12月号に掲載された書評家・門賀美央子さんのレビューで『だから家族は、』の読みどころをご紹介します。

 

大注目作家による傑作家族小説 「幼い頃に父を亡くし、兄弟もいなく、ほとんど祖母に育てられた僕は家族というものに憧れた。 だから僕が作る曲は、裏テーマが「家族」の歌が多い。 僕の歌声や見た目は、過去に生きた沢山の家族が作ってくれた」 THE YELLOW MONKEY 吉井和哉 「ここには不在や沈黙、行き止まり、隠したかった本音、まさに「悪霊とも言える令和の閉塞」がぎっしり と詰まっていて、脳の「休眠していた感覚神経」みたいな部位がぐいぐいと揺らされる。見事だ。「変なスイッチ」 が入り、夜の街を彷徨いてしまった。オヤジ殺しだ、山田佳奈!」 映画監督 堤幸彦

 

『全裸監督』脚本家による“家族になれない家族”の物語

 

■『だから家族は、』山田佳奈  /門賀美央子 [評]

 

日曜日のフードコードで楽しげに笑い合うファミリーたちを見ると心底うんざりするあなたにぴったりな、「一番近い他人」を巡る物語。

 

 家族。この言葉にポジティブな印象しかない人はきっと幸せ者だ。令和の今、表向きは家電のCM的「仲良し家族」像がスタンダードになってはいるが、現実はほとんどが愛憎半ば、どうかすると「家族と書いて面倒と読む」が相場だろう。そして、本作が描くのは「面倒と読む」タイプの家族である。

 のっけから幼い頃父親に不倫のダシにされた末弟の回想が始まり、次の章ではその父親が老いて認知症を患った末、突然姿を消してしまったことが語られる。不慮の事故に遭ったのか、自発的に家出したのか。真相は不明ゆえ子供たちは警察に届けるべきかすら判断できず、途方に暮れる。子供、といっても全員歴とした成人なのだが。30半ばを過ぎた長兄はいまだ田舎のヤンキーライフを卒業できず、長姉は頼りない兄と弟に憤懣やる方ない。家を離れて久しい末弟はどうすればいいのかわからない。突発した「父の不在」があぶり出したのは、いい年になっても中身はまだ「子供」のままという3人の実態だった。一人ひとり、章ごとにスポットを当て、内面を語らせる手法は演劇的である一方、全体には昭和の文芸系家族映画のような閉塞と葛藤の空気が漂う。

 本作が小説デビュー作となる著者の山田佳奈だが、演劇や映画に詳しい向きはこの名に見覚えがあるだろう。劇団「□字ック」主宰の演劇人であると同時に、昨年(※編集部注 2019年)動画配信サービスのみのリリースだったにも拘わらず大きな話題になったドラマ『全裸監督』の脚本家であり、また映画『タイトル、拒絶』や『今夜新宿で、彼女は』などを撮った映画監督でもある。表現に関わる多ジャンルで頭角を現しつつある気鋭だ。

 平均からちょっと(時にはかなり)下方向に外れた人間たちの群像劇を得意とする著者。そんな人が書く「家族」だから、当然すべての出来事はまったく家電CM向きでない。愚かにも愛する人を裏切ったり、傷つけたりもする。だが、それでも憎めないのは、各々が自分なりに「父の不在」、そして眼前の相手と向き合おうと努めているからだ。腰は引けていても、逃げはしない。そんな彼らはとてもいじらしい。タイトルの「だから家族は」の後にはどんな言葉が隠れているのか。読前読後では脳裏をよぎるセンテンスが変わるはずだ。

 家族に複雑な思いを抱えていればいるほど、この物語の結末には胸打たれることだろう。