累計著書230万部を超えるビジネス書のカリスマ・和田裕美氏が満を持して上梓した新作は、お仕事小説。人材派遣会社を舞台に、新入社員の初芽が、パワハラやセクハラの横行する会社で効率主義中心の企業体質にメスをいれていく奮闘記だ。和田氏自身の経験をもとにした仕事の技術が満載なだけではなく、ビジネス書には書ききれなかった揺れ動く繊細な心理や、普段はスポットライトの当たらない「非生産的」というレッテルを貼られた人々にフォーカスする。社会で働く意味とは? 本当の意味での生産性とは何か? いつかきっと、人生は逆転できると勇気をもらえる一冊だ。

「小説推理」2023年12月号に掲載された書評家・山田麻奈未さんのレビューで『それでも会社は辞めません』の読みどころを紹介する。

 

パワハラ セクハラ 理不尽 生産性 効率 人材派遣会社で働く新入社員は波乱の毎日だけど……  辞めてもいい、逃げてもいい、 でもあと少しだけ進んだら 見える世界がある  著作累計230万部 和田裕美が贈る最高のお仕事小説!

 

それでも会社は辞めません

 

■『それでも会社は辞めません』和田裕美  /山田麻奈未 [評]

 

「辞めたい理由を掘り出していけば井戸の深さほどになる」けれど。「たとえ大勢の人から注目を浴びなくても、たくさんの褒め言葉をもらえなくても」それでも会社は辞めません!

 

 会社は動物園みたいだと思う。大きな動物、小さな動物、強くて逞しい動物も、繊細で脆弱な動物も、姿形も生態も全く異なる生き物たちが同じ場所に集められている。多くの大人が一日の大半の時間を過ごす会社とやっぱり似ているように思う。

 本書は、創業40年、従業員数300名ほどの中堅人材派遣会社『パンダスタッフ』のAI推進部に所属する人々を中心に描かれる物語。『AI推進部』はIT化を促進する部署かと思いきや、実のところ“AIにとって替わられる”人たちの部署だと言われている。物語の序盤、所属の社員さえも自部署のことを「回収される前のゴミ置き場みたいな感じ?」と説明していた。

 そんなAI推進部の面々にはそれぞれに元の部署から異動になった経緯がある。仕事の効率が悪いから生産性が低いとみなされる。誰かを庇い、理不尽の波に飲まれ諦めてしまう……。

 連作短編の各話で明らかになるそれぞれの経緯を知ると、必ずしも異動の原因になるような『失敗』なのか? と考えずにはいられない。会社に損失がある一方で、救われた人がいる。しかもその損失でさえも、長い目で見ると会社にとっての利益になったこともある。それでも、会社の中では『評価に値しない』と判断されてしまう。

 社会の中では、物事の正しさや正義は、場面やそれを判断する人によって変わってしまう。登場人物たちと共に悔しさややりきれなさを感じながら読み進めた。

 そして最終話。地道に実直に働いてきたAI推進部の社員たちにかすかな光が差す──

 ビジネス書の著者として多くの会社・ビジネスパーソンを見てきた和田裕美さんだからこそ、社会の理不尽さも、そこに差すわずかな光も、リアリティをもって物語の中に描くことができたのではないかと思う。

 すべての働く人たちにきっと、輝ける場所はある。ささやかでも、誰かにとってのヒーローになれるような仕事がきっとある。

 動物園の動物たちがそれぞれに、子どもたちにとってのヒーローであるように。

 すべての働く人を讃える、お守りにしたいような力強い応援本!