あっと驚くどんでん返しとビターな読み心地で、多くの読者の支持を得る秋吉里香子の最新作は、無人島を舞台にしたバトルロワイヤル。
無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく?
この定番の他愛ない夢を実現させたバーの常連8人が、突如サバイバルバトルに巻き込まれる。普段の顔を知っているからこそ深まる心理戦、無人島というクローズドサークルで露わになる本当の人間性、はたして、限られたアイテムのみを手に生き残るのは誰なのか?
「小説推理」2023年12月号に掲載された書評家・佳多山大地さんのレビューで『無人島ロワイヤル』の読みどころをご紹介します。
■『無人島ロワイヤル』秋吉理香子 /佳多山大地 [評]
「無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく?」──。バーの常連客同士がする他愛ない会話が、本当に命がけのサバイバル・ゲームに発展する!
無人島に3つ持っていくとしたら、なにを持っていく? 常識的に考えれば、ナイフとテントは必須として……「小説推理」を手に取るくらいのミステリーファンなら、残るひとつは本を一冊チョイスして己がセンスを見せたくなるもの。うーん、僕だったら、クリスチアナ・ブランドの地中海の島を舞台にした『はなれわざ』かなあ。
なんてことを気楽に考えられるのも、自分が無人島に行く機会などありはしないという確信から。東京郊外のとある町にある〈バー・アイランド〉にて、初夏の夜に常連客同士がその話題でひとしきり盛り上がったのも、いい時間つぶしで終わるはずだった。が、バーのマスターが「俺、無人島、持ってるよ」とぽつりと漏らしたことから一転、非現実的だった無人島バカンスにみんなで出かけることに。いざ、マスターが相続した名も無き島に、それぞれ三つのアイテムだけ持参し上陸した8人の常連客だったが──このマスター、およそ正気の沙汰ではない“王様の遊び”を企画していた。なんと賞金10億円を懸けた、本物の血が流れるサバイバル・ゲームの開幕を告げるのだ……!
複数の登場人物が一所に隔離され、何かの目的のために殺し合いをしろと迫られる物語形式を、一般にデス・ゲーム物と呼ぶ。いまや小説にとどまらず、広く創作ジャンルのひとつとして認められる当代デス・ゲーム物の火付け役となったのは、ミステリーファンならご存じ、高見広春の『バトル・ロワイアル』(1999年)である。秋吉理香子の新刊『無人島ロワイヤル』では、本家バトロワと同様、登場人物たちは〈ゲームマスター〉の定めた人数になるまで殺し合うことを求められるのだ。
無人島に上陸した常連客の中には、頼れる医師がいる。バーのマスターの監視の目をあざむき、8人全員が助かる方策を医師は提案するのだけれど、残念ながら複数の常連客がマスターのお望みどおりの行動に走ってしまう。注目すべきは、それが決してお金目当てではなく、普段は抑えつけていた殺人衝動や、あるいは過度な承認欲求から仲間の命を平気で奪いだすところだ。やはり人間の本性は、極限状況においてこそ真にあらわになってくる。
作者の秋吉理香子は、しばしば“イヤミスの新旗手”と称されるが、本書の読後の印象はそれとは逆。とんでもなく悲惨な話なのに、意外にもカラッと明るい、いちおうのハッピーエンドが待ちかまえているのですよ。まことユニークでポップなデス・ゲーム小説だ。