双葉文庫ルーキー大賞を受賞した気鋭・中村あき氏が最新刊『好きです、死んでください』を上梓した。無人島を舞台とした恋愛リアリティーショー番組の撮影中に、連続殺人事件が起きるという本格ミステリだ。リアリティーショーという設定を活かした登場人物たちの心理戦、無人島というクローズドサークルで起きる惨劇、そして緻密にはりめぐらされた伏線が一気に回収されるラストの快感など、ミステリ好きにはたまらない1冊だ。中村氏に、執筆の背景を伺った。
「恋愛」と「殺人」。相反しながらどこか通底する二つをテーマに描くミステリ。
──『好きです、死んでください』は恋愛リアリティーショーの撮影現場を舞台とした本格ミステリですが、この設定はどのようにして思いつかれましたか?
中村あき(以下=中村):きっかけは、恋愛リアリティーショーの人気シリーズ『オオカミくん(オオカミちゃん)には騙されない』を知ったことです。同種の番組にはない特徴があって、それは恋愛のふりだけして場を引っかき回す「オオカミ」の存在です。出演陣はオオカミに惑わされることなく、誰が本気で自分を好きと言っているかを見極め、かつ自分がオオカミでないと相手に信じてもらわないといけない──要はリアルな恋愛模様に、人狼ゲームのような駆け引きや推理といった見どころがプラスされているのです。これは面白いと思って、すぐに本格ミステリに応用できないかと考えました。
──今作は「恋愛」と「殺人」が2大テーマです。実際に作品の中でかけあわせてみていかがでしたか。
中村:「恋愛」と「殺人」のせめぎ合いというテーマは、恋愛リアリティーショー×本格ミステリの枠組みから必然的に生じたものでした。最初はどう扱ったものかと迷うところもありましたが、編集者に助言をもらいながら、少しずつ掘り下げていきました。相反しながらどこか通底する二つの感情・行為が物語ともミステリの構造とも密接に絡み合い、全編を貫く軸になってくれたかなと思います。
──作中、番組の撮影を行っていた主人公達は、人気女優の松浦花火の死体を密室で発見します。そして、その後次々と不穏な事件が起きていきます。ミステリの王道ともいえる、孤島での連続殺人を描いてみていかがでしたか。
中村:孤島での連続殺人を描くのは、キャリア2作目の『トリック・トリップ・バケーション』以来、2度目になります。ただ今回はミステリの王道をなぞりながらも、恋愛リアリティーショーという新たな要素がかけ合わさることで、今までにない新鮮なミステリになったと自負しています。見たこともない事件、聞いたこともない推理、予想だにしない真相で読者の皆様をおもてなしすることをお約束いたします。
──リアリティーショーの撮影のため無人島を訪れた出演者とスタッフの9名はみな個性的な面々です。書いていて楽しかったキャラ、また難しかったキャラはいましたか?
中村:にぎやかなキャラたちのかけ合いはどれも書いていて楽しかったです。しいて言えば、グラビアアイドルの恋塚うるるが他の面々より少しだけ前に出たがりだった気がします。対外的なポリシーがはっきりしている子で、そこが気に入っています。
(後編)に続きます
【あらすじ】
無人島のコテージに滞在する男女の恋模様を放送する、恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」の撮影が始まった。俳優、小説家、グラビアアイドルなど、様々な業種から集められた出演者は交流を深めていくが、撮影期間中に出演者である人気女優・松浦花火が死体となって見つかった。事件現場の部屋は密室状態で、本土と隔絶された島にいたのは出演者とスタッフをあわせて8人のみ。一体誰がどうやって殺したのか? そして彼女の死は、新たな惨劇を生み出して──。恐るべき事件の〈真犯人〉は誰なのか?衝撃のラストが待ち受ける孤島ミステリ!
中村あき(なかむら・あき)プロフィール
1990年生まれ。2013年『ロジック・ロック・フェスティバル~Logic Lock Festival ~探偵殺しのパラドックス』で第8回星海社FICTIONS新人賞を受賞し、デビュー。『チェス喫茶フィアンケットの迷局集』で第3回双葉文庫ルーキー大賞を受賞。