『ぼぎわんが、来る』でデビュー後、ホラー作品で読者を魅了しつづけている注目作家・澤村伊智さんによる『うるはしみにくし あなたのともだち』が待望の文庫化となった。容姿によって居場所が変わってしまう残酷な学校生活。人の見た目を変えられる「おまじない」があったら──?

「小説推理」2020年10月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューで『うるはしみにくし あなたのともだち』の読みどころをご紹介します。

 

 

■『うるはしみにくし あなたのともだち』澤村伊智  /大矢博子 [評]

 

美しい同級生の顔が次々に崩れていく……。呪いをかけたのは誰か? その動機は? ルッキズムの軛に正面から挑んだ、戦慄の学園ホラー・ミステリー

 

 なんて悲しい物語だろう。

 ホラー小説の感想として「悲しい」は間違っているかもしれない。もちろん恐怖もある。スリルもある。けれど、私は悲しかった。怪異が起きるたびに悲しみが強まった。真相がわかったときは胸が潰れるようだった。

 澤村伊智『うるはしみにくし あなたのともだち』は、ある「おまじない」を巡る学園ホラーである。

 四ツ角高校3年2組でいちばんの美人で、クラス内カーストのトップに君臨していた羽村更紗が突然自殺した。遺書はなし、理由は不明。ただ、更紗の両親は葬儀で娘の顔を見せることを頑なに拒んでいた。

 その後、更紗に次ぐナンバー2の位置にいた野島夕菜がクラスを仕切るようになり、少しずつクラスは落ち着きを取り戻していく。ところがその矢先、夕菜の顔に異変が起きる。授業中に突然顔が腫れ上がり、崩れ始めたのだ。

 錯乱する夕菜。パニックになる教室。いったい何が起きているのか。担任の小谷舞香は、この高校に伝わる「ユアフレンド」という占い雑誌にまつわる噂を聞く。存在しないはずの昭和64年4月号が、ある日突然誰かの手元に出現する。そこにクラスの女子の見た目を醜く、あるいは美しく変えるおまじないが載っているというのだ。更紗もそれにより老婆のような見た目になったらしい。

 魔の手は止まらず、クラスの女子の顔を次々と醜く変えていく。事態を止めるべく舞香は奔走するが……。

 次の犠牲者は誰か、犯人は誰なのか。抜群の吸引力でとり憑かれたようにページをめくった。物語の展開はもちろんだが、他人が「醜くなる」ことを望む心情、当然のように「ブス」が疑われる現実、「どんな顔になったのか」を見たがる好奇心、女性を顔で格付けして楽しむ男たち……そんな描写が、いくつもの小さな棘のように胸に刺さってくる。彼女たちの気持ちが、絶望が、諦めが、わかる。わかることが嫌だ。わかることが悲しい。

 ここに描かれる「お呪(ルビ:まじな)い」はルッキズムの「呪い」だ。ナンセンスな価値観だと頭で知ってはいても、私たちは長年浴びせられ続けたルッキズムの洗礼に雁字搦めになっていることを、本書にまざまざと思い知らされた。

 ミステリとしての出来も抜群。終盤の展開には思わず息を飲むこと請け合いだ。そしてすべての真相がわかったとき──犯人の悲鳴が聞こえた気がした。「美醜とは何か」という問いを鋭く突きつける一冊である。