デビュー作『ぼぎわんが、来る』が大ヒット、昨年上梓された『ばくうどの悪夢』も話題となったエンタメホラー作家・澤村伊智さん。そんな“今、一番怖い作家”による初のミステリー連作短編集『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』が待望の文庫化!

「小説推理」2023年8月号に掲載された書評家・杉江松恋さんのレビューで『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』の読みどころをご紹介します。

 

『ぼぎわんが、来る』『ばくうどの悪夢』 今いちばん怖い作家・澤村伊智初のミステリー連作短編集 娯楽系ウェブマガジン『アウターQ』の新人ライター湾沢陸男。 「ネタ」を追いかけ辿り着いてしまった驚愕の結末とは……。

 

澤村伊智の小説を読むことは、恐ろしい。 しかし、この恐ろしさに向き合う時間は、何者にも代え難い。  小説家 阿津川辰海(文庫解説より)

 

■『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』澤村伊智  /杉江松恋[評]

 

ウェブライターは気楽な稼業ときたもんだ、と思ったら次々に迫りくる洒落にならない事件。澤村伊智、初の本格的なミステリー連作集。

 

 おもしろうてやがて恐ろしき澤村伊智。

『アウターQ 弱小Webマガジンの事件簿』の巻頭に収録された「笑う露死獣」は、街に記された暗号の謎から始まる物語である。駆け出しウェブライターの湾沢陸男は高校の2年先輩である井出和真に紹介されて、ウェブマガジンの〈アウターQ〉に書き始める。公園遊具に記された〈露死獣の呪文〉の謎を追うというのが最初に手掛けた取材だ。出鱈目に書いたように見える漢字18文字の意味を解き明かすと別の暗号が浮上してきて、と数珠つなぎに謎が出てくる趣向で、童心に返って冒険ごっこに参加しているような気分にさせられる。読者がそれに没頭し切った頃合いを見計らって、作者はとんでもない真相を突き付けてくるのである。後戻りできないところで、ひどいや。

 以降、湾沢を狂言回しとして〈アウターQ〉が記事化したさまざまな珍事・怪事が描かれていく。澤村伊智は同じ傾向の作品は2つ書かないことを自らに課している作家だから、題材・プロット共にばらばらである。たとえば「歌うハンバーガー」は摂食障害を患ったために廃業しかかったライターが再起をかけて取材を始めるという人生の蹉跌を描いた話だし、「見つめるユリエさん」は絵に描かれた女性に恋をした男性のために〈アウターQ〉のスタッフたちがモデルを探す奇譚と言うべき内容だ。こう紹介したのはあらすじの一面に過ぎず、ひねりの効いたプロットがさらに驚きを増加させる。

 謎解きの趣向が最も強いのは「飛ぶストーカーと叫ぶアイドル」で、地下アイドルのライブ会場が舞台というだけでも興味深く、そこで起きた事件に意外な真相が示される。探偵役は、出演前にも飲むほどの酒好きアイドルである。名前は練馬ねり。いいキャラクターだ。「目覚める死者たち」は分類すれば日常の謎ものというべき内容なのだが、多数の死者を出した事故を背景に用いる点に特色がある。最初の「笑う露死獣」にも共通したことで、ひねりの効いた話運びと独自性のある謎解きを堪能させておいて、ここぞというところで死や憎悪といった負の要素を作者は物語に差し込んでくる。昏いものに突然対面させられるわけで、その落差が胸に刻み込まれるのだ。

 言いっぱなしの噂が浮遊するネットメディアを舞台にしている点にもむろん意味がある。仕上げを御覧じろ。ただし自分の尻も拭けない坊ちゃん嬢ちゃんは立ち入り禁止だぜ、と作者に代わってお断りしておく。