2003年に小説推理新人賞を受賞し、作家デビューを果たして20年。いまや「短編ミステリーの名手」と呼ばれる長岡弘樹氏が、自ら選んだ5編を文庫1冊に結集! さらに、未刊行だった新人賞受賞作を大幅改稿のうえ初収録。巧妙な伏線、予想外の結末、ビターな人間ドラマの融合が見事な作品が揃った『切願 自選ミステリー短編集』。刊行にあたり、長岡弘樹氏に各作品を自選集に採ったポイントやカバーについての裏話、また短編ミステリーへのこだわりについて伺った。

 

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■ホワイトボードに書きつけてはまた歩く、といったスタイルでアイデアを捻り出しています。

 

──本書の文庫カバーに使われている写真は、長岡さんのお仕事部屋なのですね。

 

 

長岡弘樹(以下=長岡):自分のイメージどおり工務店に作ってもらえたので、使いやすくて助かっています。ただ、場所が拙宅から9キロ以上も離れているのが難点。ずぼらな私にしてみれば、毎日通うのは不便ですので、一度この仕事場に入り込んだら5日間ぐらい泊まり込むのが普通です。

『切願』のカバー写真は自分で撮りました。最初はちゃんとした一眼レフのカメラを使おうとしたのですが、どうしてもピントが合わせられずに断念。結局、使い慣れたコンデジで手軽に撮ってしまった、という一幕がありました。

 

──ホワイトボードにメモされた膨大なアイデアやトリック。これらは、どんなときに思いつくのでしょうか。

 

長岡:歩いているときです。椅子から立ち上がって、仕事場内をうろうろ行ったり来たりしていると何か頭に浮かびますので、それをホワイトボードに書きつけてはまた歩く、といったスタイルでアイデアを捻り出しています。

 あとは仕事場の階下にある台所で、何か美味しいものを口にしたときでしょうか。その食べ物を持ったまま階段を駆け上がり、忘れないうちにホワイトボードに書きつける、ということもあります。

 

──あとがきで、一時期まったく書けなくなってしまったと綴ってらっしゃいますが……。

 

長岡:悲しいかな私の場合は、創作のエネルギーが定期的に切れてしまうことがあるようです。実は去年の後半も、ほとんど作品を書けない状態に陥っていました。この怪現象の原因は……おそらく単なる「ネタ切れ」だと思います(笑)。

 

──これまで発表したのは圧倒的に短編ミステリーが多いですね。長岡さんが考える理想の短編ミステリーとは?

 

長岡:中心となるアイデア、その面白さで勝負する作品です。最後のページで読者が「なんてことを考えつくんだ」と思わず天を仰ぐような、”いい意味で呆れ返ってもらえる小説“と言ってもいいかもしれません。この点もまた『切願』の収録作を選ぶにあたっての基準でした。特に「迷走」は一つの理想形だと思っています。

 

──今年は「傍聞き」(日本推理作家協会賞短編部門受賞作)に登場した母娘が主人公を務めるシリーズが続けて刊行されますね。6月に『緋色の残響』の文庫、8月にシリーズの締め括りとなる最新刊の単行本(タイトル未定)です。

 

長岡:「傍聞き」を脱稿した時点ではシリーズ化の意図など毛頭なかったのですが、次の「赤い刻印」を書き上げたときには、すっかりこの母娘が自分でも好きになっていました。いま初めて気づきましたが、最初の「傍聞き」から最終話「黄昏の筋読み」までの間に、ちょうど彼女たちも作中で20年ぐらい歳を取った計算になりそうです。シリーズにはいったんピリオドが打たれますが、チャンスがあればどこかでまた再登場させたいと思っています。

 

長岡弘樹(ながおか・ひろき)プロフィール
1969年山形県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。05年、単行本『陽だまりの偽り』でデビュー。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同作を表題とした短編集は45万部を超えるベストセラーとなる。13年『教場』が「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位に。「教場」シリーズや、『緋色の残響』『巨鳥の影』『殺人者の白い檻』など著書多数。