2003年に小説推理新人賞を受賞し、作家デビューを果たして20年。いまや「短編ミステリーの名手」と呼ばれる長岡弘樹氏が、自ら選んだ5編を文庫1冊に結集! さらに、未刊行だった新人賞受賞作を大幅改稿のうえ初収録。巧妙な伏線、予想外の結末、ビターな人間ドラマの融合が見事な作品が揃った『切願 自選ミステリー短編集』。刊行にあたり、長岡弘樹氏に各作品を自選集に採ったポイントやカバーについての裏話、また短編ミステリーへのこだわりについて伺った。

 

■小説推理新人賞を受賞した作品「真夏の車輪」を収録
「やっと本に収録できて本当に嬉しく思っています」

 

──作家デビュー20周年おめでとうございます。まず、率直なご感想をお聞かせください。

 

長岡弘樹(以下=長岡):まずは「ありがとうございました!」の一言です。これまで私を応援してくださった方々に改めて感謝しています。

 あとは「よくやってこられたな」といったところでしょうか。ここまで続けられたことが、ちょっと不思議な気もします。アイデアに苦労ばかりしていて、20年間の大半は、うんうん唸りながら顔をしかめ続けていましたから。デビューの頃より人相が悪くなっているはずです。

 

──これまで発表された短編ミステリーは120編を超えるそうですね。その中から、収録されている5編を選んだポイントを教えてください。

 

長岡:「“ある人物の切実な願い”が最後に示される」という物語を選びました。ミステリー小説なら、どの作家さんの作品でもだいたいそういう形を取っているものだと思いますが、中でも特にその“切願”の提示の仕方が自分なりに上手くいったと感じられる作品を揃えてあります。

 

──各作品とも久しぶりに読み返し、いかがでしたか?

 

長岡:いつも書き上げたそばから内容を忘れてしまうので、どれも初読のように新鮮に感じられ、ちょっと得した気分になりました。『切願』のラインナップは書いてから時間の経っているものが多いので、「いまならこう書くのに」などと現在身につけている手法と比較しながら読めたりもして、楽しい体験でした。

 

──収録されている作品の主人公の設定が、捜査一課の刑事、地域課警察官、ヤクザ、刑務官、消防官、高校生と様々で、バラエティに富んでいますね。

 

長岡:主人公の職業が偏らないようにするという点も、作品を選ぶにあたって気をつけたポイントです。新しい作品に取り掛かるときは、できるだけ珍しい仕事や変わった職業を描こうと心がけています。ただ時間がなくて取材ができなかったりすることも多いのですが……。

 

──2003年に小説推理新人賞を受賞した作品「真夏の車輪」が、20年の時を経て初収録されているのも、大きな読みどころです。

 

長岡:なにしろ実体験を元にした小説ですから、本作への思い入れは一入ひとしおです。やっと本に収録できて本当に嬉しく思っています。この20年間は仮免許でやってきただけで、これで本当にデビューできたのだ、という気さえしています。どうぞお楽しみください。

 

(後編)──に続きます。

 

長岡弘樹(ながおか・ひろき)プロフィール
1969年山形県生まれ。筑波大学第一学群社会学類卒業。2003年「真夏の車輪」で第25回小説推理新人賞を受賞。05年、単行本『陽だまりの偽り』でデビュー。08年「傍聞き」で第61回日本推理作家協会賞短編部門を受賞。同作を表題とした短編集は45万部を超えるベストセラーとなる。13年『教場』が「週刊文春ミステリーベスト10」で第1位に。「教場」シリーズや、『緋色の残響』『巨鳥の影』『殺人者の白い檻』など著書多数。