文庫書き下ろしのシリーズといえば、時代小説と並んで隆盛を誇るジャンルがある。警察小説だ。しかもその内容はバラエティ豊か。定番の刑事ものあり、公安あり、鑑識やサイバーといった専門職あり。組織の問題を描くものもあれば、若き警官の成長小説もある。ベテランから気鋭まで多くの書き手が鎬を削る熱いジャンルだ。そこにまた新たな一枚が加わった。
父親を通り魔に、恋人をテロリストに殺されるという経験をした水野乃亜は、二度と同じような被害者を出すまいとの決意から警察庁に入庁。キャリアとして警視庁刑事部共助課見当たり班の係長を拝命する。
何百枚もの指名手配犯の写真を覚え、町に出て雑踏から見つけ出すのが「見当たり」だ。極めて地道な作業だが、実はそれによって確保される手配犯は少なくない。人の顔をどのように覚え、整形や変装した手配犯をどのようにその記憶と一致させるのか。知られざる職人技の描写に、一気に引き込まれた。
しかし、本書のシリーズタイトルが「見当たり捜査官」ではなく「警察庁特命捜査官」であることに注目。乃亜はある特命を帯びてこの部署に配属になったのである。その特命とは──防犯カメラと連動した衆人環視システム「ホークアイ」を導入することで、見当たり班を解体する、というもの。そんな中、アメリカに追われるテロリストが日本に潜入し、「ホークアイ」と見当たり捜査官たちはそれぞれ捜索を始めることに。果たしてAIが勝つのか、人間の職人技が勝つのか、それとも──?
効率化、デジタル化により、受け継がれてきた職人技が消えるというのは他の業界でもよく耳にする。それでいいのか、という問いかけがあることは間違いない。だがそこで終わらないのが本書の魅力だ。治安のための監視社会かプライバシー保護か。ハイテクかアナログか。AIか職人技か。これらはすべて二択ではない、という強いメッセージがある。最終的な目標は何なのかこそが重要で、そのために何をしなければならないかを、読者が自ら考えるように仕向けているのである。
知られざる職人技に対する驚きと、国際的謀略の興奮。手に汗握るアクション、そして頭脳戦。盛りだくさんの要素に、ページをめくる手が止まらない。登場人物の個人的な問題にも含みを持たせ、読者を惹きつける。早くも次巻が楽しみな一冊だ。