先の読めない展開と興奮のアクション、公安刑事や女ヒットマンの活躍を描いた「デッドエンド」シリーズ最新作『ブレイクスルー』が発売となった。ハードボイルド小説の名手として話題作を出し続ける柴田哲孝氏に、シリーズ5作目である本作についてお話を伺った。

 

 

──本作でシリーズ5作目となりました。毎回、罠にハメられた主人公が国家ぐるみの陰謀やテロリストに挑み、痛快にぶっ倒すのがシリーズの醍醐味ですが、今回は女子大生と女ヒットマンという異色のコンビによるダブル主役。本作の読みどころを教えてください。

 

柴田哲孝(以下=柴田):元官僚で冤罪を着せられた笠原武大と、公安刑事のコンビ。この二者で主人公が交互に代わるのが「デッドエンド」シリーズなのですが、本作の主役は第1作『デッドエンド』のときはまだ中学生だった笠原の娘・萌子。そして、もうひとり意外な人物が萌子とコンビを組む。元北朝鮮のスパイで、逃亡中の女ヒットマン・グミジャです。グミジャは非常に人気のあるキャラクターで、工作員だったのにミッションに失敗したがために、祖国に戻れなくなって殺し屋を生業としている。萌子は女子大生となり、身体的にも精神的にも大きく成長しています。この2人の意外性のあるコンビがどんなふうに絡んで、活躍するのかが最大の読みどころでしょう。

 

──女コンビのW主役はシリーズ初ですね。もちろん『デッドエンド』から登場する警察庁公安課特別捜査室の田臥と室井も登場して、グミジャを追いかけます。本作はシリーズのオールスターが勢ぞろい。物語の舞台となるのは兵庫県の淡路島ですが、この地を選んだ理由はなんでしょうか?

 

柴田:実は近年、淡路島ではいろんなことが起きています。数年前に起きた、某広域暴力団の分裂騒動は一段落したんですが、新たな勢力が入ってきて、島で様々なビジネスを展開していると聞きます。「もし島に闇の新興勢力が進出してきたとしたら……」と想像を働かせて描きました。それが今回の物語のカギとなります。

 

──萌子とグミジャの逃亡劇は目を離せないシーンの連続でした。警察からもヤクザからも追われることになり、怒涛のカーチェイスはページを捲る手が止まりません。

 

柴田:タイトルの『ブレイクスルー』とは、まさに突破口という意味。淡路島の独特な地政学的要因が逃亡劇を面白くさせました。淡路島は本州側から明石海峡大橋、四国側からの大鳴門橋のどちらかを渡らないと陸路では島から出られない。あとは船しかない。島内に包囲網を敷かれたら、もう逃げようがなくなってしまう。それを女コンビがどう突破するのかを楽しんでほしいですね。

 

──萌子とグミジャはヤクザと激しいバトルを繰り広げます。萌子はグミジャから生き延びるための術を教わり、成長していく姿がとても頼もしく、逃亡劇もスリル満点です。これは往年のハリウッド映画の脱獄モノを彷彿とさせる面白さがありました。萌子は3作目の『リベンジ』で主役でしたが、父親譲りの天才でIQは170以上。それに対して、グミジャは『リベンジ』で初登場しましたが、笠原武大の敵でした。どうして今回は味方として登場したんですか?

 

柴田:まさか、『リベンジ』で初めて書いたときはこんなキャラクターになるとは思いませんでした。北の工作員でありながらちょっと天然でエロくて、妙に憎めない奴になっていた。北朝鮮には指導者に奉仕する「喜び組」があるし、女性工作員が肉体を駆使してスパイ活動をするのも常套手段。自然とキャラクターが出来上がっていきました。それに美女スパイが活躍するのは、男性読者も喜ぶだろうなと(笑)。

 

──そんなグミジャがBMWの大型バイク・F700GSで駆けるアクションシーンは疾走感がありました。萌子も愛車であるホンダのPCXでグミジャに必死についていきます。柴田さんはかつて、パリ・ダカールラリーに出場した経験もあり、車やバイクの描写は抜群のリアリティと迫力で読者をぐいぐいと惹き込みます。

 

柴田:女性が大型バイクに乗るのはやっぱりカッコいい。BMWにしたのにも理由があります。スレンダーな女性がハーレーに乗るのはハード過ぎるしリアリティがあまりないかもしれない。だからグミジャの愛車はBMWなんですよ。700ccくらいなら小柄な女性でもしっかり乗りこなせます。萌子が大型バイクを扱うのは厳しいので、125ccのビッグスクーターに乗っているんです。

 

──今回、淡路島でヤクザと共に無法者のように振る舞う大手人材派遣会社の「キマイラ」グループですが、実際にこんな組織はあったりするんでしょうか?

 

柴田:実際にヤクザと企業が手を結んで利権を貪ることはあります。特に関西では多いですよ。政治家も利権に絡んでいて、もはや警察も見て見ぬふりをしていることもある。警察が介入しないので、うやむやになってしまうのが実情です。本作は私がいろんなところから聞いた情報をもとに、「ヤクザ・企業・政界」の闇を小説に盛り込んでおりますので、そのあたりも楽しんでもらいたいですね。

 

 

【あらすじ】大学4年生の萌子は、人材派遣会社「キマイラ」グループの就職説明会から戻ってこない同級生が心配になり淡路島に出向く。だが、白いバイクに乗っていたために、ヤクザの組長を銃撃したヒットマンと間違われて追われるハメに。IQ172の女子大生・萌子はこのピンチを突破できるのか。萌子とヤクザと警察の三つ巴の戦いが始まる!

 

柴田哲孝(しばた・てつたか)プロフィール
1957年東京都生まれ。日本大学芸術学部中退。86、87年、パリ・ダカールラリーに参戦。2006年『下山事件 最後の証言』で、第59回日本推理作家協会賞(評論その他の部門)と第24回日本冒険小説協会大賞(実録賞)を受賞。07年『TENGU』で第9回大藪春彦賞を受賞する。『デッドエンド』『クラッシュマン』『リベンジ』『ミッドナイト』『下山事件 暗殺者たちの夏』『怖い女の話』『蒼い水の女』など著書多数。