チャンネル登録者数72万人超えの推理系ユーチューバーにして、「ネット界の江戸川乱歩」とも呼ばれる作家・雨穴氏。10月20日に上梓した自身初となる書き下ろし長編小説『変な絵』(双葉社)は、全国主要書店の週間ランキングで1位を独占し、早くも25万部を突破している。今回、そんな雨穴氏のファンであり、自身も今年『ワカレ花』(双葉社)で作家デビューを果たした、小説紹介クリエイターのけんご氏の対談が実現。動画クリエイターとしても活躍するお二人が、創作活動について語り合った。

 

■“新時代”の到来を思わす作家の誕生

 

けんご:実は僕自身、雨穴さんのファンで、ユーチューブにアップされた動画もすべて拝見しているんです。『変な絵』もすごく面白くて、読んですぐにTikTokに紹介動画を投稿させていただきました。

 

雨穴:ありがとうございます。先ほど、動画を拝見しまして、“こんなにも面白い紹介の仕方があるのか”と驚きました。視聴した方が本を買いたくなるような構成になっていて、素晴らしいです。

 

けんご:ありがとうございます。今回、『変な絵』は9枚の絵を中心に91枚の絵が挿入されていますよね。“絵”を題材に選んだのはどうしてですか?

 

雨穴:去年の7月に、「消えていくカナの日記」という絵を題材にした動画を公開したのですが、その評判がよくて……。怖い絵やイラストは、昔からネット上でも話題になることが多かったので、みんな好きなんじゃないかなと思って、選びました。

 

けんご:絵にSOSが込められている話ですよね。面白くて、僕も5回は拝見しています(笑)。『変な絵』というタイトルが発表されたときも、真っ先にその動画が思い浮かんで、今度はどんな絵の話なのかなってずっと楽しみにしていました。いたるところに、図形やイラストがあって読みやすく、まだまだ小説にはこういった可能性があるのかって思わされました。イラストはすべて、雨穴さんご自身で制作されたんですか?

 

雨穴:はい。メインである、ブログに投稿された「風に立つ女の絵」や消えた男児が描いた「灰色に塗りつぶされたマンションの絵」、山奥で見つかった遺体が残した「震えた線で描かれた山並みの絵」をはじめ、多くの奇妙な絵を描きました。それぞれが、ストーリーを読み解くうえでのカギになっています。

 

──一方のけんごさんは、“花”や“四季”をモチーフにしてデビュー作『ワカレ花』をご執筆されました。

 

けんご:僕の場合、小説紹介クリエイターとして小説を紹介する立場だったので、出版のお話をいただいて、いざ書く立場になってみると何を書けばいいのか分からなくて……。だからまず、僕のSNSのフォロワーが中高生の方や女性の方が圧倒的に多いので、そういった方々に求められているものは何なのかを考えたんです。その結果、花や四季を題材にしようと。そこが一番苦労した点ですね。

 

けんご氏

 

雨穴:私は題材に関しては、絵で書こうと決めていたのですが、常に時間との戦いで……。ミステリー小説なので、時間と戦いながら話の整合性をとっていくというのに、すごく苦労しました。

 

けんご:この間も、普通に動画投稿をされていましたよね。ほんとに驚きです。僕は、僕のもとに届く「“先生と生徒の恋”の話が読みたいです」とか、「花をモチーフにした作品を教えてください」といったコメントからインスピレーションを受けて、創作活動をしているのですが、雨穴さんは小説を書くにあたって、何かそういうヒントにしているものはありますか?

 

雨穴:他の方の作品を読んでいるときに面白いなと思ったところや、印象的だった言葉や文章などから、ヒントを得ています。

 

──大勢のファンがいらっしゃるお二人ですが、本を出版した反響も大きかったのではないでしょうか。

 

けんご:はい。次の作品はいつ出すんですか?って連絡が来たりして、中高生の女の子を中心にすごい反響がありましたね。

 

雨穴:デビュー作『変な家』のときは、反響が二極化していたと思います……。ふだん、本を読み慣れていない方から読みやすかったとか、初めて本を最後まで読めたとかいう、お話を聞けてすごく嬉しかったです。でも、その反面、ふだんから本をたくさん読まれている方からすると、物足りないという反応がありまして……。

 

──『変な絵』では、そんな前作の経験を生かした点もあったのでしょうか。

 

雨穴:それはすごくあります。読みやすいっていう点を維持しながら、本を読み慣れた方が読んでも満足してもらえるように意識して書きました。完璧にできたとは思いませんが、深くて高度な物語性と心理描写などを両立させた作品になったと思います。

 

けんご:前作の経験が、かなり生きている小説でもあるんですね。

 

雨穴:はい。その経験がなければ『変な絵』は書けなかったと思います。

 

──今回、『変な絵』は“小説×ユーチューブ動画×音楽”という出版界初の試みになります。けんごさんの『ワカレ花』も音楽とコラボしていたりと、お二人は出版業界に新風を巻き起こしているわけですが、新しい読者層を得るために意識していることはありますか。

 

雨穴:私の小説を購入してくださる方は、どちらかと言えば、雨穴の動画をふだん見てくださっている、本を読み慣れていない方だと思います。そのため、新しい層を取り込むというよりは、自分の動画を見てくださる方にフィットするように、作品作りを行っている感じです。

 

けんご:僕は今でこそ、TikTokで30万人の方にフォローしていただいて、たくさんの方に見ていただけるようになったんですけど、いつも意識していることは雨穴さんとは逆で……。フォロワーの方にではなく、小説を読んだことのない、まだ小説の面白さを知らない方に向けて動画を作るようにしているんです。雨穴さんは、ファンの方に向けて書いているにもかかわらず、雨穴さんのことを知らなかった人たちにもその作品が届いている。まさに新しい小説の時代、“新時代”を切り拓くような方だなって、いろんな意味で驚かされますね。

 

(後編)互いに衝撃を受けた異彩を放つ動画とは──に続きます。

 

【あらすじ】
『変な絵』
ホラー作家兼YouTuberである雨穴氏による、自身初となる11万字書き下ろし「長編小説」! タイトルは『変な絵』。見れば見るほど、何かがおかしい? とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』……。いったい、彼らは何を伝えたかったのか――。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる! 今、最も注目を集めるホラー作家が描く、戦慄のスケッチ・ミステリー!

『ワカレ花』
TikTokで薦めた作品が続々重版! 話題の小説紹介クリエイター・けんごが手がけた初の小説は、花をモチーフにした恋愛小説。高校生の遥は通学電車で気の立った白猫に遭遇。戸惑う彼女を助けたのは名前も知らない男子高校生。毎朝、同じ電車で見かける彼を振り向かせようと、遥は文庫本を手にするように……。

 

雨穴(ウケツ)プロフィール
ホラーな作風を得意とし、“ネット界の江戸川乱歩”とも呼ばれるウェブライター。YouTuberとしても活動中で、登録者数は72万人を超え、YouTubeの総動画再生回数も8000万回を突破。白い仮面と黒い全身タイツが特徴的。原案を務めたドラマ『何かおかしい』(テレビ東京)シリーズも話題を呼んでいる。
Twitter:https://twitter.com/uketsuHAKONIWA
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UChuwE7hMjONeLU54uC8Vigw

けんご プロフィール
小説紹介クリエイター。スマホアプリ「TikTok」などのSNSで、わずか30秒ほどで小説の読みどころを紹介する動画を次々に投稿。作品の的確な説明と魅力的なアピールに、SNS世代の10~20代から絶大な支持を得ている。『ワカレ花』で小説家デビュー。
Twitter:https://twitter.com/kengo_book