10万人に1人の稀少がん・ジスト(消化管間質腫瘍)を患いながらも、「痛くもしんどくもなく、気ぃ楽に生きる」ことを発信し、病に苦しむ患者を励まし続けている緩和ケア医・大橋洋平医師(59)。
昨秋、NHK『ニュースウオッチ9』で報じられた、ゆでたまご1個の完食もやっとなほどの過酷な闘病姿と、「自由にしぶとく、我は生く」など、心の免疫力を上げる数々の名言を覚えている方も多いだろう。
3年前に肝臓転移が発覚した大橋さんは、現在ステージⅣに該当。抗がん剤治療は続けているものの、残念ながら完治には至っていない。しかし大橋さんは、やっぱりしぶとかった。
最新著書『緩和ケア医 がんを生きる31の奇跡』によると、肝臓転移の判明日を1日目とした「足し算命」が、なんと今年元日、1000日を突破。食欲も大幅アップし、かつて大好物だったチーズバーガーの完食に成功。発病後、40キロ減った体重を10キロ戻したという。
いまだがんと闘う大橋さんの身に、いったい何が起こっているのか。本書で 目を引くのは、「焦りを手放して待つこと」、「体の声をじっくり聞くこと」、そして「ほんのちょっとした勇気と工夫」の大切さだ。
「体重が激減した時は、“食べないと死ぬ”と焦れば焦るほど、何も食べられませんでした。だから、大食漢やった発病前のように食べるのは、あきらめた。その代わり、手術でうんと小さくなったミニミニ胃袋のほうから“そろそろなんか食べましょか?”と話しかけてくれるまで、じっと待つようにしたんです」(大橋さん)
すると、食欲は徐々に回復。近頃は、胃と接している腸の一部が「第二の胃袋」として働き出したのを実感中というから驚かされる。
「人間の体って凄い。がん患者だって進化するんですよ」と語る大橋さんの言葉は、ドクターであり、また病の当事者でもあるだけに説得力十分だ。
他にも、「医者を張り切らせるオーダーメモ作戦」や「息をするのもしんどい時に役立つ超意外なアイテム」「患者力より印象力が大事な理由」など、現役の緩和ケア医ならではのミラクルを起こす奥の手が満載。「足し算命」を支える愛妻・あかねさんへの溢れんばかりの思いにもグッとさせられる。
まさに、本書は胸の痛みを和らげ、生きる奇跡をつなぐ「心の抗がん剤」と言ってもいいだろう。
「なにも万馬券に当たるとか、逆転ホームランを放つとか、華々しいことばかりが奇跡やない。たとえ針の穴から差し込むようなささやかな光でも、必ず生きる原動力になる。病んでも、病んでなくても、幸福になるのをあきらめなくてエエんです」(同)。
成分は、「今を生き抜く力」。不安や苦しみにキッチリ効いて、しかも副作用ゼロ。持続期間は一生ものだ。効果のほどは、カバーを飾った大橋さんの笑顔が何より雄弁に物語っているだろう。
この“心の抗がん剤”、いざという時のために、ぜひ常備しておいてはいかがだろうか。