短くて不思議な物語「ショートショート」。その書き手として現在最前線に立つ田丸雅智氏の代表作『夢巻』『海色の壜』の2点が、双葉文庫版として電子版配信を開始する。
 ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化された「海酒」(『海色の壜』収録)や、NHK国際放送で紹介された「綿雲堂」(『夢巻』収録)、『世にも奇妙な物語』で映像化された「大根侍」(『夢巻』収録)など、幅広くメディアで取り上げられた田丸版ショートショートの魅力と、現在のショートショートの盛り上がりについて、田丸氏にお話を伺った。

 

■読んでも、書いても楽しいのがショートショート!

 

──「ショートショート」は、簡単に言うと短くて不思議な小説のことで、1話およそ5分で読めてしまう作品も多いです。今、ショートショート専門の文学賞「坊っちゃん文学賞」や、ショートショートの投稿サイトでも日々多数の作品が生み出され、改めてジャンルとしての盛り上がりを見せていますね。

 

田丸雅智(以下=田丸):じつはショートショートは10年ほど前まではすっかり下火になってしまっていました。なので、ここ数年の盛り上がりは本当にうれしい限りです。ぼくが審査員長を務めさせていただいているショートショート専門の賞「坊っちゃん文学賞」において、2020年度には9,318作ものご応募があったりと、たしかな熱気を感じています。

 

──9000通以上も! 文学賞としては、かなり多い応募数ではないでしょうか。なぜ今、ショートショートの人気が再燃しているのでしょうか。

 

田丸:いろいろな理由があると思いますが、そのひとつは現代という時代との親和性があるのではと思っています。ショートショートは1話5分ほどで読めるので、電車の待ち時間や寝る前の時間など、ちょっとしたすきま時間ですぐに読むことができます。何かと忙しい現代人にぴったりな形式ですし、SNSの台頭で短いものに親しむ人が増えたことも理由のひとつかもしれません。

 

──長時間の読書が難しいときでも、電車1駅ぶんの時間で物語が完結するというのは嬉しいですね。

 

田丸:もちろん、ショートショートが純粋におもしろいから、というのも前提としてあるはずです。単に短い時間で読めるだけでなく、あっという間に非日常の世界に飛べて、そこで待ち受けている結末に驚かされたり、笑わされたり、ほっこりしたり、しんみりしたり。読後には、まるでいろいろな味の入ったドロップ缶を傾けるときのように、次に出てくるお話に思いを馳せて心が躍る。そんな魅力も、少しずつ伝わっていっているのかなと思います。

 

──現代ショートショートの旗手である田丸さんは、ご自身でもショートショートの書き方講座を行い、どなたでも作品を書くことができる体験を提案しています。実際に自分で書いてみたいと思ったとき、ショートショートの魅力はどのようなところにありますか?

 

田丸:まず、短いがゆえに書く時間も長くはかからないというのが一番の魅力だと思っています。ぼくは執筆活動と並行して、全国各地の学校や企業などで、ショートショートの書き方講座を開催しているのですが、ショートショートなら90分ほどの時間内でアイデア発想から作品完成、発表までを行えてしまうんですね。

 

──一般的に「小説を書く」というのは難しい作業に思えますが、90分で誰でも書けるというショートショートは、執筆の入門編としてぴったりかもしれませんね。

 

田丸:ふだんは作文が苦手だという子供たちも最後は筆が止まらなくなって、「もうショートショートの宿題を出してほしい!」といううれしいご感想もいただきます。読書や作文などに苦手意識を持たれている大人の方でも、やり方しだいで誰でも書けるのはショートショートの強みですね。ぼくの書き方講座の内容は、一部の小学4年生の国語の教科書にも採用され、学校の授業でもショートショートをとり上げていただいています。

 

──ショートショートというと、さまざまなイメージや概念をお話の中で自由に変えていったりするという印象があり、身近なところから想像力を膨らませる楽しさがあります。

 

田丸:おっしゃるように、もう一つのショートショートの魅力は、創作に親しむことで物事の見方が変化するところです。たとえばペットボトルひとつとってみても「ラベルをはがすとペットボトルが寒がって、震えだしたら?」という感じで、日常的に「もしこうだったら?」という空想がよぎるようになるんですね。結果、見慣れていたはずの光景が彩り豊かに輝きはじめ、日常が楽しくなります。また、ショートショートの創作は文章力に加えて発想力や論理的思考力を磨くことにもつながっていきます。なので、プロの作家を目指すわけではなくても、趣味としてもショートショートの創作をオススメしています。

 

〈後編〉これが売れなかったら、と背水の陣で挑んだ作品集──に続きます。

 

田丸雅智(たまる・まさとも)
1987年、愛媛県生まれ。東京大学工学部、同大学院工学系研究科卒。2011年、『物語のルミナリエ』に「桜」が掲載され作家デビュー。12年、樹立社ショートショートコンテストで「海酒」が最優秀賞受賞。「海酒」は、ピース・又吉直樹氏主演により短編映画化され、カンヌ国際映画祭などで上映された。坊っちゃん文学賞などにおいて審査員長を務め、また、全国各地でショートショートの書き方講座を開催するなど、現代ショートショートの旗手として幅広く活動している。書き方講座の内容は、2020年度から使用される小学4年生の国語教科書(教育出版)に採用。17年には400字作品の投稿サイト「ショートショートガーデン」を立ち上げ、さらなる普及に努めている。著書に『海色の壜』『おとぎカンパニー』など多数。メディア出演に情熱大陸、SWITCHインタビュー達人達など多数。
田丸雅智 公式サイト:http://masatomotamaru.com/

 

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