遺伝子操作で人間が人間を作る――「パンドラの箱」ともいわれる禁断の行為に、日本の隣国が着手していた……。しかも作り出されたのは、いずれも「ギフテッド」と呼ばれる天才たち。彼らを中心に日、米、中が暗闘を繰り広げるのが穂波了氏の新刊『裏切りのギフト』だ。圧倒的なエンタメ性に加え「命の重さ」を問いかける社会性のある本作について、著者の穂波氏に話を聞いた。
【あらすじ】
中国政府が遺伝子操作で秘密裏に生み出していたデザイナーベビー。彼らは「ギフテッド」と呼ばれる天才で、スパイとして各国に送り込まれていた。しかし、中国政府の方針展開により排除されることになった彼らは「ギフト」と名乗り日本への亡命を宣言。警視庁の伊吹警部はCIAの美人捜査官とともにギフトを追うが……。新鋭による謀略サスペンス!
──遺伝子操作によって生み出された天才的な頭脳を持つ「デザイナーベビー」が主人公の小説を、7月27日に上梓されました。ド迫力のアクションシーンあり、ミステリー要素あり、そしてどんでん返しありのエンタメ作品になっていますが、この小説を書こうと思われたきっかけを教えてください。
穂波了(以下=穂波):そうですね。中国が実際にデザイナーベビーを作ったというニュースを知ったときに、人の手で生み出された人間がどういったことを考えて生きていくのかということに興味を持ちました。そこで、天才的な能力を持ちながらも、死期が定まっている人間、という設定を思いつきました。
──死期が定まっている、つまり普通の人間より寿命が極端に短い、という設定になっていましたね。ご執筆で苦労した点、さらには書いていくなかで気づいた点などはありますか。
穂波:死期が定まっているデザイナーベビーというのは、何を恐れ、どんな最期ならば納得できるのかということについては、自問自答し、何度も書き直しました。彼らが義務と願望の狭間で深刻な立場に追い込まれていく状況を描きながらも、エンターテインメント性を失わないように努めましたね。
──中国によって作られたデザイナーベビーとSATの隊員が主な登場人物ですが、この登場人物たちを想起した理由を教えてください。
穂波:作られたデザイナーベビーの背景にも国があり、SAT隊員の背景にも国があり、それら国家間のバワーゲームが個人、個人の生き方や家庭にも関わってくる、という状況を描きたかったからです。
──様々な読みどころがあり、物語はスピーディーに進んでいきますが、一番の読みどころのシーンをひとつ挙げるとしたら、どこになりますか?
穂波:登場人物の一人が(死ぬわけではなく)、物語上から突然消えるシーンがあるのですが、そこですかね。思いついたときは自分でも、え? となりました(笑)。
──たしかにそのシーンは、読んでいるこちらも「えっ!!」となりました。では、一番お気に入りの登場人物を挙げるとしたら、誰になりますか?
穂波:デザイナーベビーとして生み出され、普通の人間として生きたいという願望を持っているユーリ・メレフです。この人物を描ききれるかどうかが、この話を書ききれるかに直結していたと思います。
──ユーリがまさに体現していますが、国家間の謀略小説でありながら、人の命とはなにかを問いかけるメッセージ性のある作品だと思います。この作品を通して訴えたかったこととは?
穂波:デザイナーベビーの生を通して、生きることの苦悩を描こうと思っていたのですが、たとえ作られた命であっても、制限付きの命であっても、人は生を受けたこと自体には後悔しない、ということを登場人物から逆に教わった気がします。
──ありがとうございます。では最後に、今後、書きたいと思っているテーマやジャンルがあれば教えてください。
穂波:社会派要素の強い話であれ、エンターテインメント要素の強い話であれ、極限の状況下にある人間がそれをどう克服していくのか、その心理を描ければ、と考えております。
穂波了(ほなみ・りょう)プロフィール
1980年千葉県生まれ。2019年、謎の致死性ウイルスが題材のパンデミック小説『月の落とし子』で第9回アガサ・クリスティー賞を受賞してデビュー。近刊に『売国のテロル』(早川書房)がある。