南町奉行所で例繰方(れいくりかた)の与力を務める平手又兵衛は、周囲から「はぐれ」と呼ばれる変わり者。抜群の記憶力で仕事はそつなくこなすが厄介事には無関心。だがひとたび許せぬ悪に立ち向かえば、怒りに月代朱に染め、幼馴染みの鍼医者・長元坊ともども悪党どもを影裁き――。作家・坂岡真さんが描く令和最強の傑作時代小説「はぐれ又兵衛例繰控」シリーズ最新刊がついに発売された。

 刊行に際し、初対談が実現したのは、「TSUTAYA BOOKSTORE 梅田MeRISE店」フェア「2021年時代小説上半期トップ10」の選者として、本シリーズを1位に選んだロックバンド「ユニコーン」の川西幸一さん。アルバム『ツイス島&シャウ島』では「R&R はぐれ侍」という楽曲まで誕生させた大の時代小説ファン、川西さんと坂岡さんに、『はぐれ又兵衛例繰控【五】 死してなお』についてたっぷり語っていただきました。

(取材・文=河村道子 撮影=川口宗道)

 

──昨年発売されたユニコーン2年ぶりのアルバム『ツイス島&シャウ島』収録の「R&R はぐれ侍」が大きな話題となっています。この曲は、川西さんのはぐれ又兵衛への愛と共感から生まれてきたそうですね。

 

川西幸一(以下=川西):僕は「はぐれ又兵衛例繰控」シリーズがずっと好きで。曲を書いていたらふとメロディが浮かんできたんですけど、“はぐれだな、こりゃ”って(笑)。又兵衛の性格がすごく面白くて、共感する部分があるんですね。四角いものは四角じゃなきゃいけないとか、かといって綺麗好きというほどでもないというか。

 

坂岡真(以下=坂岡):はい、はい(笑)。

 

川西:似てるなぁって(笑)。わりと僕、きっちりしてないと嫌なんです。キーボードやギターまわりでコード出ているでしょ? あれ、ぐちゃぐちゃになっているの、許せないんです。

 

坂岡:どちらかというと几帳面な?

 

川西:ぐちゃぐちゃになってしまったら、もうどうでもいいんですけどね(笑)。あと又兵衛の妥協しない感じが好きで曲にさせていただいたんです。

 

坂岡:ありがとうございます。「R&R はぐれ侍」を聴いたときは感動がまず先に来て。すごく突き抜けた感じでノリの良い曲ですね。時代物とロックンロールというミスマッチをうまくやっていただいているところがすごくうれしくて。僕もそういうのを日ごろから狙っているので。

 

川西:ロックンロールの一番大事なところは生き様だと思うんです。又兵衛、ちょっと変わってるじゃないですか。それを貫き通しているところがロックンロールだなって。きっちりしているんだけど、傍から見ればそこもまたおかしい部分で。でも又兵衛のなかで、それは筋が通っていて正しいことで。さらに他の登場人物のキャラクターも面白いですよね。たとえば又兵衛の義父の主税とか。惚けているのか、正気なのか、その境目をギリギリでいってる。そのへんの色の付け方も含めてすごいなぁと思うんです。剣の師である一心斎に「おぬしにちょうどよい」と言われた女性、静香とひとつ屋根の下で暮らすことになったら、彼女の父である主税がもれなく付いてきたというところも面白くて(笑)。

 

坂岡:それ、最初から決めていたわけではなかったんですけど、書いていったら付いてきてしまった(笑)。でも主税は、いつの間にかシリーズの肝にもなっていきましたね。

 

──シリーズ最新作『はぐれ又兵衛例繰控【五】 死してなお』がついに刊行されました。

 

川西:またまたよかったです! 又兵衛に静香を紹介した一心斎の恋が出てきたり、主税が拐かされたり、さらにこれまでのストーリーにはこういう意味があったんだ、この人にはこういう経緯があったんだということもわかってきてすごく楽しい。1話目の「揚羽蝶蘭」では、又兵衛を見れば皮肉をもらす年番方筆頭与力の「山忠」こと山田忠左衛門の息子・忠太郎も登場してきて。生意気なそのせがれを断罪するんじゃなく、ちゃんと引っ張り戻すことも又兵衛はしていますね。

 

坂岡:忠太郎はほんとに生意気で、もっとコテンパンにしてやってもよかったんですけど(笑)、ほどほどのところでやめておきました。本物の悪党を退治していくなかで、世の中の真実をわからせてやる、みたいな感じでしたね。

 

──「揚羽蝶蘭」では、御用桜を伐った咎人に絡んでしまった又兵衛と忠太郎が窮地に陥ります。その咎人が木を伐った事情を探るうち、思わぬ悪党が炙りだされていきますが、ストーリーは謎が謎を呼び……。

 

川西:謎の解いていきかたも面白い。なぜ桜の木を伐って逃げたんだ? と、その謎を追ううち、当時の江戸庶民が見たこともなかったような別の花が出てきて、話がどんどん広がっていく。そこに登場してくるキャラクターもすごく面白い。

 

坂岡:揚羽蝶を家紋とする家のあの人ですね。鍵となる門外不出の秘密の花も、その家紋から思いついたんです。

 

川西:本作でも変わらず、幼馴染みの長元坊がすごくいい味を出している。又兵衛を手助けするため、愛ある暴走をするじゃないですか。この2人のやりとりがまた面白くて。

 

坂岡:長元坊は料理が得意なので、旬の料理の描写と一緒にも登場させているんです。料理を作りそうもないやつが作るというギャップも面白いかなと。

 

川西:長元坊が作る美味そうな料理、ご自身でも作るんですか?

 

坂岡:作らないです(笑)。

 

【後編】時代小説は自由に心を解き放ってくれる──『はぐれ又兵衛例繰控』対談に続きます。

 

●プロフィール
川西幸一(かわにし・こういち)
1959年生まれ広島出身。1987年に、ユニコーンのドラマーとしてメジャーデビュー。1993年、ユニコーン脱退後は、VANILLA、ジェット機、BLACK BORDERSなどで活躍。他に、PUFFY、甲斐よしひろ、フジタユウスケなど多くのミュージシャンのサポートも行っている。2009年年始に突如、ユニコーンが再始動を発表。シングル「WAO!」で鮮烈な復活を果たし、名作アルバム「シャンブル」を発表、大成功をおさめた。ライブでは、圧巻のステージを見せたかと思えば、独特の寸劇が始まったりするなど、個性豊かな5人の異才達からなる、日本を代表する唯一無二のロックバンドである。2021年は、「ロックンロール」をテーマに制作したフルアルバム「ツイス島&シャウ島」をリリースし、全27公演となるライブツアー「ユニコーンツアー2021“ドライブしようよ”」を開催。この模様を収めたライブ映像作品「MOVIE40ユニコーンライブツアー2021“ドライブしようよ”」を2022年2月16日にリリースし、"ドライブしようよ"スピンオフツアー「EBI & UNICORN "狙ったエモノは逃さねぇ"」を開催。
ユニコーン公式サイト http://unicorn.jp/

坂岡真(さかおか・しん)
1961年新潟県生まれ。早稲田大学卒業後、11年の会社勤めを経て文筆の世界へ。四季折々の江戸の情緒と人情の機微を、繊細な筆致で綴る時代小説には定評がある。主なシリーズに「照れ降れ長屋風聞帖」「帳尻屋始末」「帳尻屋仕置」「はぐれ又兵衛例繰控」(双葉文庫)、「鬼役」「鬼役伝」(光文社文庫)、「あっぱれ毬谷慎十郎」(ハルキ文庫)、「火盗改しノ字組」(文春文庫)、「新・のうらく侍」(祥伝社文庫)、「人情江戸飛脚」(小学館文庫)、単行本『絶局 本能寺異聞』(小学館)、『一分』(光文社)などがある。

衣装協力(川西幸一):suzuki takayuki(スズキ タカユキ)
東京都港区南青山5-12-28メゾン南青山602
TEL.03-6821-6701