著者は東大卒の才女で、ワンピースにカーディガンが似合うとても素敵なお姉様──。なのにひとつの物を買うのに、ネットで慎重に調べに調べて購入しても、なぜか失敗が多く、しょっちゅう返品している。使わない着ない物も死屍累々。わかるわかる!がここにある、お上品な毒舌が冴える、爆笑&共感必至のお買い物エッセイシリーズのファイナルが、遂に文庫化です!
「小説推理」2019年10月号に掲載された書評家・大矢博子さんのレビューと帯で『「捨てなきゃ」と言いながら買っている』の読みどころをご紹介します。
■『「捨てなきゃ」と言いながら買っている』岸本葉子 /大矢博子:評
もはや買い物は社会派エンターテインメントだ! 時代と人生を映し出す人気買い物エッセイ、ついに完結。買い物の極意がここにある(かもしれない)。
岸本さんの買い物エッセイがこれで終わりだなんて!
岸本さんが何かを欲しいと思い、ああでもないこうでもないといろいろ調べ、実際に買ってみたらどうだった、という、ただそれだけのことが実に面白おかしく綴られた人気エッセイのシリーズである。これが第5巻にして最終巻となるのだそうだ。うーん、寂しい。
第1巻『買おうかどうか』が出たのは2009年。もう10年前である。(単行本刊行当時)あれを読んで私はデニム調のレギンスと醤油差しを買ったのだった。文庫化の際には買い物にちなんで取説風の解説を書かせていただいた。
第2巻『買わずにいられる?』ではネットオークション初挑戦や宿の予約サイトなど、ネットを介しての買い物が増えた。2013年の『カートに入れる?』では災害時の非常用持ち出し袋やヘルメットなど世の中を反映した商品が並んだ。私が第2巻のレビューで「岸本さん、靴のインソールに興味はありませんか? 私、買おうかどうか迷ってるんですけど」と書いたら、『買い物の九割は失敗です』にインソールの項があって快哉を叫んだっけ。いや、別に私に答えてくれたわけじゃないだろうけど。おまけに買い物としては失敗に属する方だったけど。
そして本書では、ネットショッピングはセールや下取りの利用といった上級者向けノウハウを使いこなしてるし、既刊で試行錯誤していたルンバではなくスティックタイプの掃除機を新たに買っているし、スマホでメール処理してるし(パソコンの設定のため自宅に係の人を呼んだ話はどの巻だっけ?)、かといって失敗がなくなったわけではないのだが、えっと、それはそれとして……つくづく思う。買い物の記録とは、人生と社会の記録なのだなあ。
このシリーズは、もちろん買い物顛末記としてとても面白い。事前調査マニアっぷりをふんだんに発揮して買った挙句失敗するのだから面白くないはずがない。けれど社会が対面販売からネットショッピングへ変わる様子や、ファッションから家電に至るまで流行がどう変わったかなど、その時代の色合いがつぶさにわかるのだ。そして著者の興味や生活に変わった点がある一方で、性格はまったく変わらないことも。それがまた楽しい。
またぜひ続きが読みたいものだが、ひとまずお別れか。願わくは、著者と読者の今後の買い物生活に幸多からんことを! ところでたるみ取りのタイタンって、そんなに効くの?(慌てて検索)。