関ヶ原の戦いで人さらいにあい、離ればなれになった少年ふたり。片やポルトガル商人、片や宣教師に救われ、それぞれの道で成長する。長崎、マカオ、海をも渡り、ふたりの人生がさまざまに交錯する! 有馬晴信によるポルトガル船襲撃事件やマカオの戦い(ボルトガル対オランダ)など、史実を織り込みながら、人生の喜怒哀楽をたっぷり読ませる壮大な長編歴史小説!

 書評家・細谷正充さんのレビューと書籍の帯で『南蛮の絆 多聞と龍之進』の読みどころをご紹介する。

 

武力よりも金よりも強いもの。それは人を信じる心なんだ!  幼なじみの二人は関ヶ原の戦場で人さらいに遭い、離ればなれに。 だが、徳川幕府黎明期の激動する南蛮社会で、二人の数奇な運命は、海をも越えて幾度も交錯する。  壮大なスケールの中で、名も無き魂の成長と貴き友情を描く、感動の大河小説!

 

共に関ヶ原で生まれ育った12歳の多聞と龍之進は、1600年、大いくさの戦場でそれぞれ、人買いにさらわれてしまう。その後、多聞は宣教師に救われ、龍之進は篤実なポルトガル商人の家にもらわれた。長崎で運命の再会を果たした二人だったが、龍之進は養父が異端者のレッテルを貼られて没落、多聞には禁教政策のうねりが襲う。苦難の末、遠く海を渡ったマカオで再び邂逅した二人は、片や貿易商人、片やイエズス会士として逞しく成長していくが、やがてマカオを攻めてきたオランダとの死戦に起つ。友情、恋、信仰、使命――人を信じて清々しく生きる。感動の歴史長篇!

 

■『南蛮の絆 多聞と龍之進』大村友貴美  /細谷正充:評

 

物語を通じて、人を信じる意味、人の生きる意味が、力強く問われている。

 

 歴史に対する興味と知識が、作品の端々から窺える。そんなミステリー作家がいる。大村友貴美だ。その作者が、明治期を舞台にした医療ミステリー『緋い川』を経て、ついに本格的な歴史小説『南蛮の絆 多聞と龍之進』を上梓した。戦国時代の日本とマカオを背景にした、壮大な人間ドラマである。

 関ヶ原近くの村で暮らす少年の多聞と龍之進は、天下分け目の戦に雑兵として参加した父親を心配して、様子を見に来る。しかしふたりの父親は死んだ。さらに、人さらいに遭遇し、離れ離れになってしまう。その後、龍之進はポルトガル商人のマヌエルの家にもらわれ、多聞は宣教師に助けられキリスト教徒となる。

 長崎で再会したふたりだが、ポルトガル商人が誣告されたことで運命が暗転。捕らえられたマヌエルと、彼が娘のように育てていた松田沙羅を助けるため、龍之進は海に乗り出す。曲折を経て、マカオを拠点とする交易商となった龍之進は、女商人になった沙羅と再会。さらに、キリスト教を弾圧する日本からやって来た、多聞とも再会するのだった。

 という粗筋は、物語の前半に過ぎない。以後、龍之進と多聞を中心に、多数の人々の波乱の人生が描かれていく。感心したのは、九州のキリシタン大名・有馬晴信が東南アジアに送った朱印船の乗組員がマカオで起こした事件から始まる一連の騒動が、龍之進や多聞と大きくかかわることだ。またクライマックスは、マカオに攻めてきたオランダ艦隊との戦いなる。このような史実を巧みに織り込みながら、熱気に満ちたストーリーが展開していくのだ。手に汗握るとは、このことか。

 しかも物語を通じて、人を信じる意味、人の生きる意味が、力強く問われている。何度も辛い思いを味わいながら、自分の道を見つけていく、主人公たちだけから、テーマが伝わってくるのではない。龍之進や多聞を苦しめるバレンテという男も登場するが、彼にもそこに至るまでの生の軌跡があった。深く彫り込まれたキャラクターが、バレンテを単なる悪役で終わらせない。

 人種も立場も関係なく、激動の時代を生きる人々の、喜怒哀楽が息づいているのだ。だから本書は、こんなにも読みごたえがあるのだろう。今後も作者が歴史小説を執筆することを、期待せずにはいられない快作である。