血と暴力に塗れた裏社会を描いたノワールから、感涙の純愛小説まで幅広い作風で活躍する新堂冬樹。前者は“黒新堂”、後者は“白新堂”と呼ばれ、「次はどっちで来るのか?」と楽しみにするファンは多い。

 本作『任侠ショコラティエ』の主人公は、伝説の元極道にして、現役ショコラティエの星先直美。向かってくる敵には容赦しないが、女子供と老人には優しい。

 そんな“黒”と“白”のいいとこ取りをしたハイブリット作品について、「小説推理」2022年7月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと書籍帯で、読みどころをご紹介する。

 

最後に、愛は勝つ。  規格外のパワーと愛情をショコラに捧ぐ星咲直美は、伝説の元極道。 修羅の日々から、人々を笑顔にするために足を洗った。 だが、古巣「東神会」の魔手が直美に忍び寄る――。 愛と笑いのスイーツ極道小説

 

歌舞伎町でボンボンショコラの専門店「ちょこれーと屋さん」を営む星咲直美は、かつて「歌舞伎町の百獣の王」と呼ばれた伝説の元極道。傍若無人な振る舞いと破天荒な言動に舎弟の譲二はいつもきりきり舞いだが、なぜか女たちと年寄りからは人気がある。だが、堅気になった後も半グレを殴り、ヤクザも追い込む直美の所行を苦々しく思う、古巣「東神会」の若頭・海東が卑劣な罠を仕掛けてきた。悪逆非道な手口に、直美の怒りと鉄拳が炸裂する!

 

■『任侠ショコラティエ』新堂冬樹  /細谷正充:評

 

星咲直美は、元ヤクザにして現ショコラティエ。向かってくる敵には容赦しない。新堂冬樹の新刊は、バイオレンスとチョコレートの香りに満ちている。

 

 本書のタイトル『任侠ショコラティエ』だけを見て、今野敏の新刊だと誤解した人がいるかもしれない。なぜなら、昔気質のヤクザ「阿岐本組」が、書店・学校・病院など、畑違いの経営に乗り出す「任侠」シリーズがあるからだ。しかし、本書の作者は新堂冬樹である。主人公と仕事のギャップは共通していても、今野作品とはまったく違った内容になっているのだ。

 新宿歌舞伎町でボンボンショコラの専門店「ちょこれーと屋さん」を営む星咲直美は、かつて武闘派の暴力団「東神会」に所属するヤクザ者であった。規格外のパワーと、愚直すぎる心を持つ直美は、「歌舞伎町の百獣の王」と呼ばれた伝説の存在だ。それは、ショコラティエになっても変わっていない。今でも、自主的にパトロールして、歌舞伎町の住人を守っている。

 そんな直美を慕っているのが、「東神会」時代に一の子分となり、現在は「ちょこれーと屋さん」で働いている鬼渡譲二だ。常連客もいて、店はそれなりに回っている。だが、直美を邪魔に思っている「東神会」の若頭・海東が、卑劣な罠を仕掛けてきた。これに激怒した直美は、修羅場に飛び込んでいく。

 元ヤクザ者で現ショコラティエ。このギャップを楽しむ話かと思ったらとんでもない。主人公の直美のキャラクターが規格外なのだ。心のままに振る舞い、相手が悪いとなれば当たり前のように半殺しにする。その傍若無人ぶりが、愉快痛快なのである。

 そんな直美だから、常連客の営むカラオケスナックが海東の手先に荒らされ、譲二が拉致されると、もう止まらない。圧倒的なパワーで敵をなぎ倒すのだ。ここまで読んで分かったが、本書は一風変わったバイオレンス小説なのである。近年、良質のバイオレンス小説が希少なので、嬉しい贈り物といっていい。

 しかも、ショコラティエの部分も手抜きなし。直美が提唱する「ショコラ四ヶ条」は、大いに参考になった。また、腹を刺されたときの血を見て、新しいショコラの工夫を思いつくなど笑える場面も多い。ここも読みどころだろう。

 そして本書は、鬼渡譲二の物語でもある。チキンな性格だが、一途に直美を慕う譲二。空回りばかりしている彼の気持ちは、直美に届くのか。バイオレンスとスイーツの香りに包まれた物語の顛末を、どうか読者自身の目で、確認してほしいのである。

 

『任侠ショコラティエ』の【試し読み】はこちら
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1368