著作『正体』が亀梨和也主演の連ドラになったことで話題の染井為人氏。社会で実際に起きている事件や事象を小説に落とし込み、人間の欲や汚さ、社会の不条理さを描く筆致は社会派ミステリーの新星として高い評価を受けている。そんな染井氏の最新作は、あの日本一有名な半グレ組織が起こした実際の事件をモチーフにしたサスペンス小説。なぜ、いまこの事件を書いたのか。著者の染井氏にうかがった。
──亀梨和也さん主演で連続ドラマ化された『正体』、そしてロングセラーを記録している『悪い夏』で注目されている染井さんですが、このたび「半グレ」による実際の事件をモチーフにした社会派サスペンス『鎮魂』を上梓されました。世間を騒がせる半グレ組織「凶徒聯合」のメンバーが次々に殺されていく物語ですが、「半グレ」をテーマに小説を書こうと思った理由を教えていただけますか。
染井為人(以下=染井):少し前から、動画メディアが出てきて、YouTubeで元不良や元ヤクザみたいな人たちが顔を出して動画を公開するようになりましたよね。見ているほうも刺激が欲しいから、再生回数も上がる。ただ、その一方でかつて悪いことをした人たちが公の場に出ることで、過去に傷ついた被害者の人たちがどう思うだろう。顔も見たくない、話も聞きたくないと思うんじゃないか。傷つけた人たちの目に触れないようにすることが一番の謝罪なのでは、と思ったのがキッカケですね。
──デビュー作からここまでの染井さんの作品に通じる点として、実際にあった事件や事象の一枚裏、二枚裏にまで思いを馳せて、新聞やテレビなどのメディアには出てこない、その奥にある人間模様を書かれている傾向があるように思います。そのあたりは意識しているのでしょうか。
染井:意識してるってことはないんですけど、僕、どんなものも、サイコロで考えるんです。サイコロって1度に見られるのって3面までじゃないですか。角度を変えてみて、自分がぐるりと裏側に回ったり、ひっくり返すと、裏側の残り3つの数字も見られる。物事や人間も同様で、いろんな角度から見てみようと意識しているのかもしれませんね。
──そのサイコロを見るような視点で、今回も実際に起きた事件を想起して物語を綴られました。もちろん、あくまでフィクションとして書かれていますけど、実際の事件を扱ううえでの苦労はありましたか。
染井:事件そのものを書くわけではないにしても、できる限り、当事者というか、モチーフにしている人たちをいたずらに傷つけるようなフィクションを織り交ぜるのはやめよう、と思いながら書いているので、そのあたりはゼロから書いていく小説とは違うという点で苦労しました。あとやっぱり、単純に怖いというのはありますね。
──今回のテーマが「半グレ」です。おっしゃるとおり、怖さもあると思いますが、そのあたりはいかがでしょうか。
染井:それは、今回、覚悟を持って書いたところはありますね。この本を願わくば、物語に出てくる事件のような被害にあった人とか、それと加害者、そのどちらにも読んでもらいたいなと思っているんです。書かれていることは本当にえげつないというか、悲しいお話なんですけど、この小説を通して、悪いことを続けていると悲劇が待っているかもしれない。人を傷つけるのはやめようよ、とか、そういうことも伝えたかったので、覚悟をもってストレートに書いたところはあります。
【後編】〈どの段階で被害者は加害者を許すのか〉に続きます。
●プロフィール染井為人(そめい・ためひと)
1983年千葉県生まれ。芸能マネージャー、演劇プロデューサーなどを経て、2017年『悪い夏』で横溝正史ミステリ大賞優秀賞を受賞し、デビューする。4作目となる『正体』は亀梨和也が主演しWOWOWで連続テレビドラマ化された。そのほかの著書に『正義の申し子』『震える天秤』『海神』がある。