就職活動で最終選考に残った6人の大学生たちの究極の心理戦を描いた『六人の嘘つきな大学生』で、2022年本屋大賞第5位、第12回山田風太郎賞と第43回吉川英治文学新人賞の候補ともなり、一躍その名を轟かせた浅倉秋成さん。そんな今最も注目を集める作家の最新作『俺ではない炎上』が発売された。

 

 SNSでのなりすましアカウントによって、ある日突然、「女子大生殺害犯」に仕立てられてしまった男の決死の逃亡劇を描いた作品で、“明日は我が身かもしれない”というリアルな緊迫感と、10年にもわたって偽アカウントを運営していた正体不明の犯人捜し、そして、あっと驚くアクロバティックな仕掛けが読む者の世界を一変させる、実に野心的なエンターテインメントである。

 

 主人公の名前は、山縣泰介。ハウスメーカー勤務の営業部長で、仕事では順調に出世し大勢の部下を従え、私生活では自社で建てたマイホームに、愛する妻と娘と暮らす順風満帆な人生を送っている。だがある日、取引先との打ち合わせの帰りに支社長からかかってきた一本の電話で彼の人生は急転する。

 

「とにかくすぐ戻れ。絶対に裏口から」

 

 どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。Twitterで犯行を仄めかしていたそうだが、そのアカウントが泰介のものであると誤認されてしまったようだ。

 

 SNSなどやらないのでまったく心当たりはなく、誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していたが、当該アカウントは実に用意周到で、10年も前から泰介として活動し、泰介のことをよく知っている人ほど本人のものとしか思えず、誰一人として無実を信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも……。

 

 そんななりすましの恐怖について、作者の浅倉さんはこう語る。

 

「現代における最大の嫌がらせはなんだろうと考えたとき、陥れたい相手になりすましたSNS上で悪さするのが一番じゃないかと思ったんです。絶妙ななりすましアカウントだったら、きっと手の打ちようがないだろうなという思いつきから、本作の骨子ができあがりました」

 

 作中では、同僚や家族にも信じてもらえず、孤立無援で逃亡する泰介の姿が描かれ、さらにはそれを追う警察やYoutuber、炎上に荷担する人々のツイートが挿入される。

 

・【拡散希望】殺人をほのめかしているアカウントがあります。すでに身元も判明しているのですぐに捕まると思いますが近隣の人は注意してください。リンク先で顔も確認できるので、見かけたら通報推奨です。
 引用:【速報】死体写真投稿者の詳細判明! 本名山縣泰介、大帝ハウス勤務、大善市在住
みゆきママ☆育児奮闘中@miyumiyu_mom0615

 

・死体が発見されたらもう言い逃れのしようはないな。大帝ハウスの電凸配信見たけど、会社は体調不良で帰ったの一点張り。体調不良になることがそもそも犯人だってことの証明だし、警察に突き出さないで帰宅させる会社も謎。普通の会社じゃない。俺の会社なら即アウト。
 引用:【真報新聞ウェブ】大善市万葉町で女性の遺体発見
マキタコゴロウ@イデアスジーン代表@kogorou_makita

 

・男前で高給取りの優良物件と結婚して、順風満帆っぽい人生歩んでた家族が一夜にして崩壊して、一文無しになって路頭に迷う姿を想像することにまったくのカタルシスがないと言えば嘘になる。薄給ブサメンクズと結婚してしまった現場からは以上です。
はなまるそーきそば@くじけぬメンタル@sokisoba_tabetai11

 

 泰介のことを犯人だと信じた人々は、容赦なく石を投げ、炎上の火はどんどん大きくなる。そんな「〇〇警察」とでも呼ぶべき、集団心理と暴走する正義感を浅倉さんはこう分析する。

 

「実際に炎上したものを調べていてわかったのは『みんな、本気で怒っている』ということでした。もっと、軽い気持ちで反射的に書き込んでいると思っていたのですが、真剣に怒りを表明している。自分とは直接関係ないはずのことにも、自分のことのような熱量で。でも、怒っているときってみんな『自分は悪くない』と信じているから、怒れるんですよね。自分だけは正しい、冷静に物事を見つめることができている、だからわかっていない人たちに教えてあげているんだ、くらいのつもりで」

 

 ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、誰も彼もに追いかけられ、ともすると殺されそうになりながら逃げ続ける泰介だが、やがて彼の胸に、ある一つの感情が生まれる。

 

 逃げるのではなく、追うのだ。

 

 ひとり闘うこと決意した泰介は、ある人物に協力を仰ぐために目的地を定めるが、そこにもまた思いもよらない「真実」が待ちかまえていた――。

 

 はたして、絶体絶命の泰介に逆転はあるのか? そして、狡猾な正体不明の犯人は誰なのか? 誰もが、あっと騙される、浅倉マジック炸裂の炎上逃亡ミステリーの結末をぜひあなたの目で見届けてほしい。

 

見本を読んだ全国の書店員から絶賛のツイートが!?