昨年11月、急逝した笹本稜平氏。警察小説、冒険小説、山岳小説と多ジャンルで活躍した不世出の作家の代表作といえば、ドラマ化もされた「越境捜査」シリーズだろう。警視庁と神奈川県警の刑事コンビが管轄も法も「越境」しながら巨悪に挑む警察小説だが、惜しくも今作『流転 越境捜査』が最終巻となってしまった。

「小説推理」2022年6月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと書籍の帯で、『流転 越境捜査』の読みどころをご紹介する。

 

12年前、富豪一家3人を惨殺し20億円もの資産とともに国外逃亡した男が横浜市内で目撃された。さっそく警視庁捜査一課で継続捜査を担当する鷺沼が捜査に乗り出すが・・・・・・。昨年11月に急逝した著者の代表的シリーズ「越境捜査」、その最新刊にして最終刊。

 

■『流転 越境捜査』笹本稜平  /細谷正充:評

 

許せない極悪人に、鷺沼と宮野を中心としたタスクフォースが挑む。笹本稜平が読者に残してくれた、最後の「越境捜査」シリーズ。心して読んでほしい。

 

 笹本稜平の「越境捜査」シリーズの第9弾が、「小説推理」の連載を経て刊行された。いつもだったら大喜びで書評を執筆するのだが、今回は同時に深い悲しみがある。周知の事実だが作者は、2021年の11月に急逝した。本書が、シリーズの最終作になってしまったのである。だから喪失感を抱きながら、慈しむように読んだ。

 神奈川県警の小悪党刑事・宮野裕之は、川崎競馬場でオケラになった帰り路、国際指名手配されている木津芳樹を見かけた。木津は、12年前に都下の奥多摩で起きた富豪一家惨殺事件の教唆犯である。事件が起きた直後、被害者の口座から20億円を上回る資金がオフショアの匿名口座に振り込まれているが、これもメガバンクの行員だった木津の仕業らしい。殺人の実行犯の中国人2人はすぐに捕まったが、彼は逃亡を続けて今に至っている。

 木津に大金の匂いを感じた宮野は、旧知の警視庁捜査一課特命捜査対策室特命捜査二課の鷺沼友哉に連絡。最初は渋っていた鷺沼だが、なし崩しにタスクフォースを立ち上げ、木津を捕まえようとする。木津が偽名で暮らすマンスリーマンションの経営会社の総務部長・中村和俊にも、怪しいところがある。だが木津が飛び降り自殺を図り、意識不明になった。それでも事件の真相を求める鷺沼たちの前に、底知れない闇が待ち構えているのだった。

 宮野が木津に気づく発端から、ストーリーはテンポよく進む。とはいえ鷺沼たちの捜査は堅実だ。まず木津が本人かどうかを確認しようとするのだが、非常に手間取る。それを作者は、克明に描き出すのだ。個人情報が保護されるようになった現代の、刑事活動がここにある。

 そして木津が自殺を図ってから、物語のギアが一段上がる。警視庁の捜査の裏で、いつものタスクフォースのメンバーが、独自に動く。昭和7年まで遡る事件の闇は深く、多くの人々の人生を狂わせた犯人の肖像は極悪だ。

 そう、今までのシリーズでタスクフォースが挑んだのは“巨悪”だが、本書は“極悪”なのである。鷺沼たちのメイン・ターゲットは、一人の極悪人なのだ。

 さらに宮野が企む金儲けも、意外な展開を迎える。これも従来のシリーズと違うところだ。おそらく作者は本書から、シリーズの新たな展開を考えていたのではないか。だからこそ急逝が惜しまれてならない。時に法の一線を越境してまで、許せぬ悪と戦うタスクフォースの活躍を、もっともっと読みたかったのである。

 

▼警察小説の巨星・笹本稜平が遺した「越境捜査」シリーズ一覧はこちら
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【ブックレビュー】
文庫最新刊「転生 越境捜査」のブックレビューはこちら
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1174

 急逝した著者が遺した「越境捜査」シリーズ第7弾。警視庁と神奈川県警のはみだし刑事が「所轄」はもちろん「法」や「常識」を“越境”して巨悪を討つノンストップ警察小説。今度の謎は「死んだはずの男」の過去…… 『転生 越境捜査』笹本稜平