京都の骨董品店を舞台に、店主の息子・清貴とアルバイトの葵が謎に挑む「京都寺町三条のホームズ」シリーズ。古美術をめぐる謎、ふたりの恋愛模様、四季折々の京都の風情などで人気を集め、アニメ化・コミック化もしている。
このたびシリーズ累計200万部突破を記念して、シリーズの原点に立ち戻り7つの短編と京都ガイドを収録した0巻が3月に、新展開を迎える最新18巻が4月に刊行された。両作品、そしてシリーズの今後について、著者の望月麻衣さんにお話をうかがった。
(取材・文=野本由起)
主人公ふたりを新たな視点で描いた短編集に、京都ガイドブックをプラス
──京都を舞台にした古美術ミステリー「京都寺町三条のホームズ」は、2015年から続く大ヒットシリーズです。このたびシリーズの原点に立ち返る0巻が発売されましたが、この作品が生まれた経緯についてお聞かせください。
望月麻衣(以下=望月):「京都寺町三条のホームズ」シリーズでは、舞台となる京都の四季についても描いています。以前にも、京都の観光ガイドを収録した「6.5巻」を刊行しましたが、その後も「京都の見どころを教えてください」と質問をいただくことが多かったんですね。私としては作品を通して書いてきたつもりですが、やっぱり四季折々の名所をまとめたガイドブックが1冊あってもいいのかなと思いました。そうすれば、季節ごとの見どころもわかって読者のみなさんも観光しやすいし、シリーズを読んでいない方にも興味を持ってもらえるのかな、と。
そこで担当編集さんに企画を提案したところ、「いいですね、じゃあ短編も入れましょう」となって(笑)。そういった経緯で、京都のガイドブックと短編を合わせた「0巻」が生まれました。
──作中でも、京都の魅力や四季折々の風景を丁寧に描いていますよね。京都を描くうえで大切にしていることは?
望月:できるだけ、リアルに伝わるように書いています。現地取材をしていても、いざ書こうとなると細かいところを忘れていることもあって。例えば神社の鳥居を抜けたあと、左右どちらに手水舎があったか。お参りしたあと、缶コーヒーを買ってベンチで飲むというシーンを書くなら、そこに自動販売機やベンチはあったのか。ざっくり書いたあと、もう一度確認しに行くことも多いですね。地面が砂利かそうでないかで、登場人物の足音も変わってきますから。本当にあるものを書き、見たものに対する自分の思いも盛り込むことで、読者の方にも疑似体験してもらえたらと思っています。そのうえで「自分も行ってみよう」と実際に京都を訪れるきっかけになればうれしいですね。
──短編についても、お話を聞かせてください。葵と清貴の出会い、それぞれの視点から描いたバイト初日のエピソードなど、ふたりの原点となる7つの短編が収録されています。
望月:3巻くらいしか読んでいなくても、楽しめる内容にしたかったんです。シリーズも17巻まで来ましたから、これまでのストーリーを全部追いかけていない方もいるでしょう。ですから、アニメをちらっと観た方、マンガは読んだ方でも楽しめるよう初期のお話にしようというのが、私の中でのコンセプトでした。「0巻」と言いつつ、「1.5巻」くらいの内容です。
冊数を重ねているシリーズなので、初々しさを取り戻すために、アルバムをめくるような気持ちで最初のほうを読み返しました。初めの方は両片思いのような状態なので、そのじれったさと言ったら……(笑)。でも、そこがいいのかなと思いながら、もどかしいふたりを書いていきました。
──今回書き下ろされた7編の中で、望月さんのお気に入りは?
望月:あの頃の清貴は葵のことをどう思っていたのかを描いた、「あの夏の夜の後に……」が好きですね。清貴自身はまだ自分の感情に気づいていないけれど、ちょっと揺れているところが書けたのがうれしかったです。他には、クリスマスのエピソードも清貴と葵のすれ違いを楽しみながら書きました。
──執筆当初は、ここまで長く続くシリーズになるとは思っていなかったそうですね。長く愛される理由は、どこにあると思いますか?
望月:やっぱり京都という土地の魅力が大きいと思います。海外にも素敵な場所はたくさんありますが、「私には行けないだろうな」と近寄りがたく感じる方もいるでしょう。でも、京都だったら気軽に行ける身近さがあります。あとは、何を書いても許してくれる懐の深さがあるんですよね。ミステリーも陰陽師のような題材も、すべてを受け入れてくれる舞台なんです。
もうひとつ挙げるとしたら、ライトなミステリーだということでしょうか。最近は、「世の中がしんどすぎて、重い小説が読めなくなってしまった」「若い頃はイヤミスも読めたけれど、最近は読むだけで落ち込んでしまう。あなたの作品は必ずハッピーエンドになるから大好き」という読者も少なくありません。そういった安心感もあるのではないかと思います。
──3月に0巻、4月には18巻と、2ヵ月連続で新刊が発売されます。18巻の見どころも教えてください。
望月:京都案内をふんだんに取り入れ、エンタメに振り切った作品にしました。香港から大金持ちのお嬢様がやってきて、清貴に京都を案内してほしいと言うんです。でも、清貴は全然乗り気ではなくて。すごいわがままなお嬢様に対して、さらに輪をかけて腹黒い清貴、みたいな構図を目指しました(笑)。こんなに性格が悪いのかというくらい、振り切って楽しく書けました。
──シリーズを支えているファンのみなさん、これからシリーズを読み始める方へのメッセージをいただけますか?
望月:「京都寺町三条のホームズ」シリーズは、私にとって特別な存在です。新しい情報を公開した時の反応も他の作品とはまったく違いますし、「このシリーズが大好きです」と言ってくださる方も多いんですね。私の代表作と言える作品ですし、こんなに愛していただけるなんてありがたいと心から思っています。
今回の「0巻」は、シリーズをすべて読んでいない人、まったく読んだことがない人でも楽しめる作りになっています。シリーズ累計200万部突破記念として、1、2、3巻にも新しいカバーがつくので、この機会にシリーズを読み始めていただけたらと思います。1、2、3巻を合わせるとカバーが1枚の絵になりますし、裏面にはショートストーリーも掲載しています。ぜひご新規の方にも楽しんでいただきたいですね。
〈お知らせ〉
文庫本1~3巻に新帯が登場!
文庫1~3巻が、イラストレーター・ヤマウチシズ先生の新規描き下ろしイラストを幅広帯(ダブルカバーサイズ)として期間限定で発売! 帯の裏面には書き下ろしショートストーリーも掲載される。
また、3月10日発売の0巻と同日にコミックス最新9巻も発売された。コミックス9巻を購入すると、「書き下ろしショートストーリー付描き下ろしイラストカード」がついてくる特典も! こちらは一部書店にて配布されているので、お求めの方は購入前に必ず書店へご確認を。
シリーズ累計200万部突破記念Twitterキャンペーンを実施
3月10日の0巻発売に合わせたキャンペーン第1弾は、ご好評のもと終了しております。18巻発売日の4月14日にスタートするキャンペーン第2弾をお見逃しなく!
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双葉文庫 たばぶー @futababunko
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