翻訳書新刊『わたしの体に呪いをかけるな』(リンディ・ウェスト 著/金井真弓 訳)は、体形・容姿・生理や中絶のタブー視・性的な値踏みといった、男性優位社会が女性の身体にかけるすべての呪いをぶった切る、不屈のユーモアと怒りのフェミニズム戦記です。

 

■『わたしの体に呪いをかけるな』著:リンディ・ウェスト/訳:金井真弓

 

 著者はアメリカの文筆家・コメディライター。並外れて体の大きい子供だったリンディは、アニメや映画で太った女性がおしなべて〈哀れなジョークのオチにされたり、恐ろしい悪人にされたりしていた〉ことに気づいて以降、太った体に対する社会の偏見に悩みながら育ちます。その結果、自分を肉体的にも精神的にも小さく見せ、目立たず騒がず波風立てない“無害な”存在として、あるいは体形をネタにした男性のジョークに自ら乗っかる「“おもしろい女”枠」として生きることになりました。

 しかし、やがて彼女はあるきっかけで自分の体を愛せるようになり、文筆家として自分の声を発し始めます。太った人への偏見に抗議し、自分もその一員であるコメディ界に蔓延する女性蔑視と闘う彼女に、今度は体形をネタにしたインターネットの誹謗中傷が襲いかかりました。何百、何千も投げつけられる匿名の悪意に、再び息の止まるような思いをする日々。それは「女は黙って性的消費の対象か、(自分たちにとって) “無害な”存在でいろ」という男性優位社会の呪いの表れでした。

 それでも、リンディはもう黙りません。息を殺して自分を小さく見せることなく、卑劣漢たちに反撃・反論します。やがて投稿者の一人から謝罪を受け、気づいたのは、彼らは怪物などではなく、自らもこの社会の呪いに苦しみ、その呪いを目につく他者に転嫁したくて女性を攻撃する、ミソジニー(女性蔑視)を文化によって内在化してしまっただけの「人間」であることでした。

 私たちの社会では、「もっと痩せろ」「もっと金を稼げ」「愛されるように振る舞え」「空気を読んで従順であれ」といった様々な圧力が、人々の言葉やメディアの表現の中に満ちています。それがいつしか自分への呪いと化し、他者へと向かう。これは、この日本でも日々、私たちが直面していることです。

 1人でも多くの人に自分自身を苦しめる社会の呪いに気づいてもらうために、次に続く女性たちの盾であり道標でもあるために、そして何より、あちこちから攻撃してくるミソジニーに屈することなく自分が息をするために、今日もリンディは声をあげます。みんなにかけられた呪いを解き、ともにこの社会を築いていくための言葉こそ、本書のタイトル「わたしの体に呪いをかけるな」なのです。

 この社会で生きづらさを感じさせられているすべての女性はもちろん、日々の暮らしの中でどこか「息ができない」ように感じている方には、男女問わずぜひ読んでいただきたい1冊です。リンディの力強い言葉と、決して忘れないユーモアに、きっと元気をもらえることでしょう。