相次ぐゲーム化やアニメ化によって、若い世代からも注目を集める日本の“文豪”たち。国語の教科書で読んだことがある、という作家でも「怖い話」となると読んだことがない方も多いのではないでしょうか。夏目漱石、江戸川乱歩、内田百間、泉鏡花によって描かれた、人間の本能をヒヤっとさせるタイムレスな「怖い話」を選りすぐったアンソロジー・シリーズが誕生しました。

 編者は、アンソロジーの編纂や、怪奇幻想及びホラー小説を中心とする文芸評論、怪談文学研究などの分野で著述活動を展開している東雅夫氏。雑誌「幻想文学」や「幽」元編集長でもある東雅夫氏だからこそ編むことのできた「文豪怪奇コレクション」シリーズは、現在第5巻まで発売中。各巻の内容と読みどころ、“怖ポイント”をご紹介します。

 

■文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石

 

文豪怪奇コレクション 幻想と怪奇の夏目漱石

 

 夏目漱石と言えば『吾輩は猫である』や『坊ちゃん』など、国語の授業でも読んだことがある人も多いのではないでしょうか。いまなお国民的人気を誇る文豪・夏目漱石は、実は大のおばけ好きで、幻想と怪奇に彩られた名作佳品を手がけています。

 西欧幻想文学の影響が色濃い「倫敦塔」「幻影の盾」から心霊小説の名作「琴のそら音」を経て、名高い傑作「夢十夜」、さらには今回初めて文庫化される怪奇俳句や怪奇新大詩まで、漱石が遺した怪奇幻想文学作品のすべてを1冊に凝縮しました。

 怖くて妖しい文豪名作アンソロジーの、記念すべき第1作目です。

 

■文豪怪奇コレクション 猟奇と妖美の江戸川乱歩

 

文豪怪奇コレクション猟奇と妖美の江戸川乱歩

 

 日本で多くの読者に親しまれてきた作家の一人である江戸川乱歩は、ミステリーや少年向け読物のみならず、怪談文芸の名手でもありました。

 蜃気楼幻想と人形からくり芝居が妖しく交錯する不朽の名作「押絵と旅する男」、斬新な着想が光る「鏡地獄」や「人間椅子」、この世ならぬ快楽の世界へと誘う「人でなしの恋」や「目羅博士」など、残虐への郷愁に満ちた闇黒耽美な禁断の名作を収録。子どもの頃に読んだ時とはまた違う怖さの感じ方を愉しんでみてはいかがでしょうか。

 文庫初収録となる巻末の「夏の夜ばなし──幽霊を語る座談会」も注目です。

 

■文豪怪奇コレクション 恐怖と哀愁の内田百間

 

文豪怪奇コレクション恐怖と哀愁の内田百間

 

 夏目漱石に学び、芥川龍之介と親交を結び、三島由紀夫らにより絶讃された、天性の文人・内田百間。日本語の粋を極めたその文学世界は、幻想文学の一極北として、今もなお多くの読者を魅了してやみません。史上最恐の怪談作家が遺した、いちばん怖い話のアンソロジー。「とおぼえ」や映画化でも有名な「サラサーテの盤」をセレクト。磨き抜かれた文体が織りなす、幽暗な魅力にあふれる百間幻想文学の作品が満載です。

 

■文豪怪奇コレクション 耽美と憧憬の泉鏡花〈小説篇〉

 

文豪怪奇コレクション 耽美と憧憬の泉鏡花 〈小説篇〉

 

 明治・大正・昭和の三代にわたり、日本の怪奇幻想文学史に不滅の偉業を打ち立てた、不世出の幻想文学者・泉鏡花。本書は、鏡花の名作佳品の中から、なぜかこれまで文庫化されていなかった、恐怖と戦慄と憧憬に満ちた怪異譚を蒐めた『黒塀』(ちくま文庫刊)を、改題し、新たに編者解説を収録した1冊になります。「黒壁」「遺稿」など鏡花の生涯を通して繰り返し出没する「女怪幻想」は、彼にとっての怪談的原風景なのかもしれません。

 

■文豪怪奇コレクション 綺羅と艶冶の泉鏡花〈戯曲篇〉

 

文豪怪奇コレクション 綺羅と艶冶の泉鏡花〈戯曲篇〉

 

 異界の美男美女が乱舞する鏡花戯曲の三大名作「天守物語」「夜叉ケ池」「海神別荘」に加えて、友人の独文学者・登張竹風と共訳した初期の珍しい佳品「沈鐘」(ハウプトマン)、非業の死を遂げた〈お友達〉たちの秘密が明かされる「多神教」、吉原大火の記憶もなまなましい「池の声」、三島由紀夫と澁澤龍彦を熱狂させた晩年の「山吹」と「お忍び」……日本文学の頂点を極める、必読の名作ばかりを蒐めた、不朽の1冊です!

 さて、あなたはどの「文豪の怖い話」から読みますか? 圧倒的な筆致で描かれた文豪の恐怖を、とくとご覧あれ。