■『夜は不思議などうぶつえん』石田祥

 

 勇ましいライオンに、優雅なキリン。動物園は私達にとって、非日常の動物たちと会える楽しい場所だ。

 一方、動物園の裏方の仕事は楽ではない。体力必須の汚れ仕事が多いのみならず、つねに命と向き合い神経をすり減らす。

 主人公の飛鳥あすかは、老朽化で閉園が予定されている小さな動物園でアルバイトをしている。本当はドルフィントレーナーになりたかったが、努力が実らず、動物園の裏方のバイトに流れてきたのだった。夢破れてくすぶっていたある日、先輩職員の不破ふわとともに、動物園の夜間の見回りを引き受ける。そこで飛鳥が見たものとは……?

 石田祥の『夜は不思議などうぶつえん』は、動物と人間の心の交流をコメディタッチに描いた成長物語だ。不破は、動物と「入れ替わる」ことができる特殊な体質をしており、夜の間だけ、動物たちに体を貸して檻の外に出してやる。ライオン、キリン、サイ、フラミンゴなど、不破の体を借りた動物たちと、飛鳥は星空の下で語り合う。動物好きにとっては夢のようなシチュエーションだが、その会話の中で、動物たちが人間をどんなふうに見ているかが興味深い。

「人間を羨ましいと感じてる動物はいないぜ。逆に、憐れんでる」
「憐れむ?」


 檻に閉じ込められ可哀想と思われる動物たちが、実は檻の外にいる人間のほうを憐れんでいると言う。動物から見た人間は、縛られ好きの奇妙な生き物。時間に追われ、見た目に気を遣い、感情は豊かというよりも持て余している。自分をよく見せようとして、本音を伝えられず、空回ってばかり。

 夢が叶わない悲しみを知る飛鳥も、別れた妻のことが忘れられない不破も、それぞれ人間らしい葛藤を抱えている。しかし、あるがままの自分を認め、好きな人に素直に気持ちを伝える方法を、動物たちのほうが遥かによく知っている。動物たちと交流しながら、自分の本心を見つめ、相手の本当の気持ちに耳を傾けるうちに、飛鳥たちの日常にも少しずつ変化が訪れていく。

 くすりと笑って、思わず涙腺が緩み、動物たちから大切なことを教えてもらえる。生き物好きな読者はもちろん、人生に悩んでいる人にもぜひともおすすめしたい、生きるヒントがぎゅっと詰まった心温まる1冊だ。