■『グッバイ、マスターピース』新馬場新
友人との会話で少し内容を盛って話してしまったり、SNS上で普段とは異なる自分を演じてしまったり……人というのはどうしても日常の中で嘘を吐いてしまいがち。
何の気なしに吐いた嘘で人間関係が大きく変わってしまうことなんて当たり前にあるし、誰かを傷つけるため、悪意をもって嘘を吐く人だってめずらしくない。
でもその一方で、優しい嘘で救われる人だって、きっとこの世にはたくさんいるはず。
第3回文芸社文庫NEO小説大賞を受賞した気鋭・新馬場新が送る新作『グッバイ、マスターピース』は、まさにそんな「人を救う嘘」の物語だ。
本作の主人公である紅藤凪斗は、病に倒れた幼馴染の少女を元気づけるために、彼女が愛した、しかし作者の不祥事のせいで打ち切られてしまったとある人気漫画の続きを描き、傑作のままに完結させる計画「プロジェクト・マスターピース」を立ち上げる。
その計画は確かに人を騙すためのものではあるが、一方で、たった1人の少女を救うためだけに吐かれた、真摯で温かい想いに満ちた嘘でもある。だからこそ、少しクセはあるがなんとも人間臭いキャラクターたちが時にぶつかり合いながらも奮闘する姿は、きっと多くの読者の心を打つことだろう。
そして、そんな優しさに溢れた「嘘」の計画が向かう先に待つ、感動の結末とは――。
仲間との友情、ほのかな恋心、夢への憧憬……。高校生という人生で最も多感な時期特有の想いが宝石のように煌めきあう本作は、涙あり、笑いあり、熱く心滾る展開もある、まさに青春小説界の新たなマスターピース(傑作)である。
また、カバーイラストを手掛けるのは、物語を感じられるような美麗なイラストで現在人気急上昇中のイラストレーター・まかろんK。メインキャラクター2人の微妙な距離感だけでなく、メインの舞台となる漫画部の部室に漂う空気感までもが緻密に表現されたイラストにも、ぜひとも注目をして頂きたい。
さらに、帯で隠れている部分にはちょっとしたギミックも仕込まれているので、実物を手に取り、読後の余韻そのままに帯を取り外してチェックしてみて欲しい。
「世界でいちばん優しい嘘」に触れ、温かい優しさに満たされてみませんか。