山本甲士の警察モノ。そう聞いて、近年のハートウォーミング・ストーリーしか知らない読者は、ちょっと驚くかもしれない。だが作者のデビュー作『ノーペイン、ノーゲイン』は横溝正史ミステリ大賞優秀作であり、初期はミステリー作家として活躍していた。だから警察モノを執筆しても、何の不思議もないのだ。
とはいえ本書は、かなりユニークな作品である。警察モノにしては珍しく、連作ショートショートになっているのだ。しかも「まえがき」で、「読み物としてだけでなく、うその対処法を網羅したマニュアル本としても楽しんでいただけるのではないかと思う」と書かれている。これはもう、どんな作品なのか気になって、すぐ本を開かずにいられないではないか。
交番勤務から中央署の刑事組対課に異動になった光川亮也は、平間徹とコンビを組んだ。かつて県警の組織的な裏金作りを告発しようとして、仲間の裏切りによって頓挫した平間は、監察官室から常にマークされ、小さな事件ばかり担当している。だが彼は、被疑者や参考人の嘘を見破る術に長けていた。平間の技術を吸収しながら光川は、刑事として成長していく。
本書には、全三十五話が収録されている。基本的に独立した話なので、どこから目を通しても大丈夫だ。しかしできれば、最初から順番に読んでほしい。なぜなら光川の成長が実感できるからだ。第一話「さまよう視線」で、嘘をつくときの視線の行方を教わったのを手始めに、光川は嘘を見抜くノウハウを吸収していく。そして第二十五話「大変革の予感」で、お偉方の研修会で嘘を見破る方法をレクチャーするまでになるのである。
また、平間が光川に弁当をたかるという繰り返しのお約束シーンがあるのだが、きちんとした理由が存在したことが中盤で判明する。これにより平間のキャラクターも魅力が増すのだ。ショート・ストーリーを積み重ねながら、光川と平間の人間性を掘り下げる作者の手腕を、称賛したいのである。
その一方で、次々と披露される、嘘を見抜く技術が興味深い。心理学や生理学に基づいた判別方法は、強い説得力を持っている。技術に頼り切る危険性も指摘されているが、それに注意さえすれば、私たちが日常の中で実践しても問題なし。小説として面白く、マニュアル本として役に立つ。なんともお得な一冊なのだ。