本書は、双葉社web文芸マガジン「カラフル」に、『ジ・エンド』のタイトルで連載された短篇七作をまとめた、文庫オリジナル短篇集だ。本の帯に“おやすみ前に珠玉の1編を”と書かれているが、いささか首肯しがたい。だって作者が長篇のみならず、優れた短篇集を幾つも刊行している新津きよみではないか。一度読み始めたら最後まで止められない、面白い作品が並んでいるのだ。
冒頭の「絶縁」の主人公は、和子という女性である。中学時代に、同じクラスの浩美に対するいじめが始まり、それに消極的に加担したことがある。そんな和子も看護師になり、三人兄弟の三男と結婚。しかし次男の妻が浩美だった。和子は浩美に会うたびに罪悪感を覚える。
この後、和子と浩美の陰湿な関係が描かれるのかと思えば、話は予想外の方向に転がっていく。もちろんふたりの確執もあるのだが、ストーリーの運びも着地点も意外すぎた。その意外性の中から、ひとつの家族のありふれた、でも当事者には深刻な状況が見えてくる。不安という名の真綿で、ジワジワと首を絞められるような物語だ。
続く「永久(とわ)に」は、女性ライターの取材により、不倫の果てのバラバラ殺人事件の真相が明らかになると思わせて、最後に物語の軸が別の場所に移転する。女性ライターの、したたかな立ち回りに、苦笑いが浮かんだ。
以後の話は、簡単に触れておこう。「引き際」は、ふたつの家族の意外な接点を織り込みながら、人生の引き際が見つめられている。「余命」は、老いらくの恋の陰にある、子供の暗い心を抉ってみせた。「陰のコレクター」は、現実に不満を抱いている女性の仕掛けたゲームの展開に驚く。実にテクニカルな作品だ。「彼女のステージ」は、シングルファザーと結婚しようとする女性の、心の揺らぎが綴られている。ミステリー的な仕掛けを巧みに使っているのが作者らしい。
そしてラストの「死ぬまでにしてほしい五つのこと」は、癌で余命わずかな妹から、五つの頼み事をされた姉が、新たな人生を歩むことになる。最後にある事実が明らかになるのだが、これにより温かなストーリーと冷酷なストーリーを同居させているのだ。凄い話である。
また収録されたほとんどの作品は、夫婦や親子など、家族の関係性を取り上げている。だから多くの読者は、作中のサスペンスを身近に感じられるのだ。ここも本書の読みどころといえよう。