昨年十月に刊行されるや否や、迫力あるストーリーと個性的な登場人物で熱狂的な支持を得た『十三階の女』。わずか一年足らずでシリーズ新刊のお目見えだ。主人公はもちろん、公安警察の中でも特に秘密裏な任務を担当する、通称〈十三階〉の女性刑事、黒江律子である。

 前回は新幹線爆破事件を起こしたテロリストを追う物語だったが、今回は宗教組織が相手。かつて住宅地や地下鉄にサリンを撒いたり、被害者の会会長一家を殺害したりという事件を起こし、その教祖が死刑判決を受けた宗教組織、カイラス教団。組織は解体されたが、生き残りたちが五つの教団に分かれて活動を続けている。

 ところが、死刑囚である教祖が執行を待たずして癌で余命いくばくもないという状況になった。教祖が死ねば分裂した教団とその信者は必ず混乱し、争いを招きかねない。公安はその対策を粛々と進めていた。

 そんなとき、黒江律子は妹の萌美から衝撃の事実を知らされる。なんと律子の母が、その分裂した教団のひとつである「輪芽11」の信者になったというのだ……。

 カイラス教団は明らかにオウム真理教をモデルにしたものだが、教祖の死によって起きる混乱を描いた本書のゲラを読んでいる最中に、オウムの元教祖らの死刑執行のニュースが飛び込んできたのには驚いた。なんという偶然か。だから読書中の臨場感は生半可なものではなかった。

 だがそれ以上に引き込まれたのは、非常にトリッキーな本書の構成である。敢えて時系列を入り乱れさせているのだ。事件の発生から決着までを一本の線にし、それを幾つもに分断してあちこち入れ替えた──そんな構造なのである。しかも、それがいつの話なのか見出しがつくわけでもないし、章で区切られているわけでもない。

 まったく混乱がなかった、と言えば嘘になる。しかし、そういうことかと飲み込んでからは一気呵成だ。何がどうしてこの場面になったのか、あるいは先に知らされたこの場面はのちにどんな意味を持ってくるのか、ただストレートに事件を追うだけではないスリルと、つながったときのカタルシスをたっぷり味わえる。実に巧い。

 そしてやはり、何と言っても本書の魅力は黒江律子の強烈なキャラクターだろう。心の底で血を流しながらも、鋼の意志とプロ意識で事件に立ち向かう、その知略とアクション! 前作を未読でも問題なし。ぜひこの闘うヒロインの姿に酔っていただきたい。